インドネシアで急ぐ経営者ほど、結果を出せない。スピード感の錯覚と現地の時間軸
日本では「決断が早い経営者」は評価されます。
会議は短く、結論は明確に、期限は具体的に。
しかしインドネシアでは、そのスピードが逆効果になることがあります。
「Nanti dulu(あとで)」と言われたとき、
それは単なる延期ではありません。
急がせることで失われる信頼。
計画通りに進まない前提。
そして“動かない時間”の意味。
私は何度も遠回りをしながら、
ここではスピードを出す技術ではなく、
「出すタイミングを読む技術」が重要なのだと学びました。
今回は、インドネシア経営における
「スピード感の錯覚」について書きたいと思います。
「今すぐ決めたい」は本当に正しいのか
日本では、決断が遅いことは機会損失につながると考えられています。
だからこそ、資料を揃え、論点を整理し、その場で決める文化があります。
私も最初は同じでした。
価格改定、原料仕入れ、設備投資、人事配置。
「今日中に方向性を出しましょう」と言い続けていました。
しかしインドネシアでは、その“正しさ”が空回りすることがあります。
たとえば原料の調達です。
「今週中に数量を確定させたい」と伝えると、
現場は「できます」と答えます。
ところが翌週になると、状況が変わります。
天候が崩れる。
宗教行事で人が集まらない。
物流がずれる。
すると、「少し待ってください」となります。
これは怠慢ではありません。
前提が違うのです。
日本は「固定前提で動く社会」。
インドネシアは「変動前提で動く社会」。
その違いを理解せずにスピードだけを持ち込むと、
表面上は動いているように見えても、実は信頼が少しずつ削られていきます。
「あとで」の本当の意味
Nanti dulu(あとで)。
最初は曖昧な言葉だと思っていました。
しかし経営を続けるうちに、その意味が見えてきました。
それは「準備が整っていない」という単純な話ではありません。
・関係者の合意がまだ十分ではない
・空気が固まっていない
・タイミングが合っていない
・流れがまだ来ていない
つまり、「まだ流れができていない」というサインなのです。
日本的な感覚では、
「流れは作るもの」です。
しかしインドネシアでは、
「流れは読むもの」です。
ここで急いで押し込むと、表面的には進みます。
しかしその後で、小さな歪みが出てきます。
連絡が遅くなる。
優先順位が下がる。
本気度が落ちる。
結果として、余計に時間がかかります。
急ぐことで、実は遠回りしているのです。
急がせることで失うもの
経営者が見落としがちなのは、「信頼の速度」です。
インドネシアでは、
信頼は合理性よりも先に積み上がります。
どれだけ正しい提案でも、
どれだけ数字が合っていても、
・相手が安心しているか
・関係が温まっているか
・立場を守れているか
が整っていなければ、本当の意味では動きません。
急がせることは、相手の「守り」を強くします。
すると、情報が出てこなくなります。
本音が見えなくなります。
結果としてリスクが見えなくなります。
私は何度もそれを経験しました。
「早くやりましょう」と言った案件ほど、
後から問題が出ることが多かったのです。
逆に、一度止まり、雑談を挟み、
時間を置いた案件ほど、結果が安定しました。
ここでは、スピード=優秀ではありません。
タイミングを読む力こそが、優秀さなのです。
現地経営の時間軸
インドネシアの時間軸は直線ではありません。
波のように上下します。
・ラマダン前後で動きが変わる
・雨季で漁獲が変わる
・行政の処理が読めない
・港の混雑で物流がずれる
これらは例外ではなく、前提です。
日本では計画からズレたら修正します。
インドネシアでは、ズレる前提で設計します。
固定スケジュールではなく、可変レンジで組む。
「◯日納期」ではなく
「◯週レンジ」。
「確定数量」ではなく
「想定幅」。
これができる経営者は焦りません。
焦らないから、無理に押しません。
押さないから、信頼が残ります。
信頼が残るから、最終的に速くなります。
一見ゆっくりに見えますが、
総時間では速いのです。
本当に速い経営とは何か
以前の私は、「速く決めること」が経営力だと思っていました。
今は違います。
インドネシアで速い経営とは、
・波が来た瞬間に一気に動くこと
・空気が整った瞬間に決めること
・相手の準備ができた瞬間に押すこと
です。
それまでは観察します。
管理するのではなく、観察する。
動かすのではなく、読む。
そしてタイミングが来たら、
日本以上の速度で動きます。
実は、現地で結果を出している経営者ほど、
普段は静かです。
焦りません。
騒ぎません。
急ぎません。
しかし「今だ」と判断した瞬間、
迷いなく動きます。
スピード感の錯覚
日本人が陥りやすいのは、
「常に動いていないと不安」という感覚です。
会議を増やす。
進捗を求める。
報告を要求する。
しかしそれは、
“動いている感覚”を得たいだけなのかもしれません。
インドネシアでは、
動いていない時間も価値になります。
関係を温める時間。
様子を見る時間。
空気を整える時間。
この「見えない時間」を無駄と捉えるか、
投資と捉えるかで、結果は大きく変わります。
まとめ 急がないことが、最短距離になる
インドネシアで結果を出す経営者は、
スピードを否定しているわけではありません。
スピードを管理しないのです。
読む。
待つ。
観察する。
そして来た波に乗る。
日本の時間軸をそのまま持ち込むと疲れます。
しかし現地の時間軸を理解すると、楽になります。
急がないからこそ、最後は速い。
それが、私がこの国で学んだ
スピードの本質です。