55歳になって、ようやく分かったこと 頑張ることを、頑張らなくなった日
55歳からの小さな気づき 第3話
朝、工場へ着くと、スタッフはもう持ち場についています。
誰かがタコを洗い、誰かが計量し、誰かが箱を運んでいます。毎日見ている、いつもの風景です。
そんな光景を眺めながら、私は時々思います。会社を経営していると、不思議なくらい問題は重なるものだ、と。
原料が集まらない。為替が動く。コンテナの予定が変わる。設備が故障する。資金繰りを考えなければならない。ようやく一つ解決したと思ったら、また次の問題がやってきます。
「これで少し落ち着ける。」そう思えた日は、ほとんどありません。
50歳で会社を作った頃の私は、そのたびに全力で走っていました。「何とかしなければ。」「もっと頑張らなければ。」「自分がやるしかない。」そう思っていました。
頑張れば、何とかなると思っていた
会社員時代の私は、頑張ることで何とかなってきました。営業で数字が足りなければ、もっとお客様を回る。知識が足りなければ、勉強する。失敗したら、次はもっと努力する。頑張ることが、自分の武器でした。
だから起業してからも、同じように考えていました。頑張れば何とかなる。
でも、それは半分しか正しくありませんでした。
経営には、自分一人ではどうにもならないことがあります。天候も、市場も、為替も、人も、自分では動かせません。その現実を受け入れるまでに、ずいぶん時間がかかりました。
工場が動かない日
会社を作ったばかりの頃は、工場が思うように動きませんでした。準備しても予定どおりに進まない。許認可が遅れる。設備の問題が見つかる。
「来週には始められる。」そう思っていたことが、一か月後でも始められない。
焦りました。頑張っているのに前へ進まない。眠れない夜もありました。「本当に会社を作れるのだろうか。」「日本へ帰った方がいいのではないか。」そんなことまで考えた日もあります。
今振り返ると、あの頃の私は、問題そのものよりも、「思いどおりにならないこと」に疲れていたのだと思います。
スタッフが教えてくれたこと
ある日、工場で遅くまで仕事をしていました。翌日のことが気になって、資料を見直していた時のことです。
スタッフが笑いながら言いました。
「Pak Kenji、besok saja。」
「社長、続きは明日にしましょう。」
私は思わず「いや、今日やらないと」と言いました。でもスタッフは、「明日もありますから」と笑って帰っていきました。
その時は、「のんきだな」と思いました。
でも翌朝、誰一人遅れることなく工場へ来て、昨日の続きを始めていました。
そこで初めて気付いたのです。彼らは頑張っていないのではない。頑張り続けられる働き方をしているのだと。
問題はなくならない
55歳になった今でも、問題はなくなりません。むしろ、会社が大きくなるほど責任は増えました。原料が集まらない日もあります。資金繰りに頭を悩ませることもあります。思うように売上が伸びない月もあります。
経営とは、問題が起きない状態を目指すことではありません。問題が起きても、会社を止めないこと。それが経営なのだと思うようになりました。
昔は、問題が起きるたびに、自分まで壊れそうになっていました。でも今は違います。「また来たか。」そう思えるようになりました。慌てず、一つずつ解決していけばいい。
問題は、なくならない。でも、自分の向き合い方は変えられる。それが、この5年間で一番大きく変わったことでした。
頑張ることを、頑張らなくなった日
今でも私は仕事が好きです。もっと良い会社にしたい。もっと良い商品を作りたい。もっと漁師さんの役に立ちたい。その気持ちは何も変わっていません。
変わったのは、自分への向き合い方です。
無理をすることが、頑張ることではない。休むことは、怠けることではない。力を抜く日は、また明日歩くために必要な時間です。
だから最近は、「もっと頑張ろう」ではなく、「今日も続けよう」と思いながら、一日を始めています。
また明日
夕方、工場を出る頃になると、スタッフは笑顔で「また明日」と言って帰っていきます。私も同じように、「また明日」と返します。
若い頃の私は、「明日も頑張ろう」と思っていました。でも55歳になった今は違います。「明日も続けよう」と思っています。
55歳になって、ようやく分かったことがあります。
人生は、問題がなくなってから楽になるのではありませんでした。問題を抱えたままでも、また明日へ進めるようになった時、人は少しだけ心が軽くなるのだと思います。
人生には、頑張ってもどうにもならない日があります。でも、そんな日があっても、また会社へ行く。また一歩進む。その積み重ねが、気が付けば5年という時間になっていました。
私は、ようやく頑張ることを、頑張らなくなったのだと思います。
次回は、
「人生は、遠回りした方が面白かった」
について書いてみたいと思います。
若い頃は、最短距離ばかり探していました。でも55歳になった今、一番大切な出会いや学びは、遠回りした道の途中にあったような気がしています。
この連載では、55歳になった今だからこそ気付けた、小さな学びや人生の変化を綴っています。