ラマダン後半に消費が爆発する理由 インドネシア「THRボーナス」が動かす巨大経済
インドネシアでは、ラマダンの終盤になると街の空気が一気に変わります。
ショッピングモールは人で溢れ、家電量販店は混雑し、レストランには行列ができる。
交通渋滞はさらに激しくなり、宅配サービスも注文が殺到します。
この消費の爆発を生み出しているのが、THR(Tunjangan Hari Raya)と呼ばれるラマダンボーナスです。
日本では「ボーナス」というと会社の業績や評価によって変わるものですが、インドネシアのTHRは少し性格が違います。
これは法律で支給が義務付けられている宗教祝祭手当であり、イスラム教徒にとってはレバラン(断食明けの祝日)前に必ず支払われる特別なお金なのです。
私がマカッサルで生活していて毎年感じるのは、
このTHRが社会全体の消費を一気に動かす巨大なスイッチになっているということです。
今回は、インドネシアの経済を実際に現場で見ている立場から、
ラマダン後に消費が爆発する理由と、その背後にある仕組みを解説してみたいと思います。
ボーナスが「法律」で決まっている
まず、THRとは何かを簡単に説明します。
THRは「宗教祝祭手当」と呼ばれ、インドネシアの労働法で支給が義務付けられています。
対象は、基本的にすべての正社員です。
勤続1年以上の従業員には基本給1ヶ月分のボーナスが支払われます。
つまり企業側からすると、これは「出すか出さないか」ではなく、必ず支払わなければならない給与なのです。
しかも支給タイミングは決まっていて、
レバランの遅くとも7日前までに支払うことが法律で定められています。
この制度があるため、ラマダンの終盤になると、
インドネシア中の会社で一斉にTHRが支払われます。
日本で言えば、
全国民にほぼ同時期にボーナスが配られるようなものです。
これが経済に与えるインパクトは、想像以上に大きいのです。
THRが入った瞬間、街の消費が動き出す

THRが支給されると、街の雰囲気は明らかに変わります。
それまで昼間は比較的静かだったショッピングモールが、突然混み始める。
電気店ではテレビや冷蔵庫が売れ始める。
アパレルショップはレジ待ちの列ができる。
まるでスイッチが入ったかのように、消費が一気に動き出します。
私がマカッサルでよく行くモールでも、
ラマダン終盤になると明らかに客数が増えるのが分かります。
特に目立つのは以下のような消費です。
・洋服
・スマートフォン
・家電
・家具
・帰省のお土産
・外食
つまり、日常の消費ではなく、
少し大きめの支出が一斉に起きるのです。
これは単なるボーナス消費ではありません。
レバランという宗教イベントに向けて、
「新しいものを買う」「家族に贈る」という文化があるからです。
レバラン文化が消費をさらに加速させる
インドネシアでは、レバランの前にはいくつかの習慣があります。
代表的なものがこちらです。
・新しい服を買う
・親族にプレゼントを贈る
・実家に帰省する
・家を掃除して家具を新しくする
つまりレバランは、日本でいう正月のようなイベントです。

しかもインドネシアの場合は、
家族・親族の結びつきが非常に強い社会です。
そのため、帰省のときには
・親
・祖父母
・兄弟
・親戚
・近所の人
など、多くの人にお土産を持っていく文化があります。
当然、支出は大きくなります。
このタイミングでTHRが支払われるため、
人々はそのお金を使って一気に消費をするのです。
インドネシア経済は「ラマダン特需」で回っている
実は、このラマダン消費は国家レベルでも重要な経済イベントです。
インドネシアでは、毎年この時期に
・小売売上
・航空需要
・ホテル宿泊
・交通利用
などが大きく伸びます。
特に帰省ラッシュ「ムディック」は世界最大規模とも言われています。
何千万人という人が一斉に移動するため、
航空券も鉄道も高速道路も、すべてが混雑します。
つまりラマダン後の消費は、
単なる宗教イベントではなく、
国家規模の経済イベント
でもあるのです。
ビジネスをするならTHRのタイミングを理解する
私自身、インドネシアでビジネスをしていて強く感じるのは、
このTHRのタイミングを理解することが非常に重要だということです。
例えば
・商品プロモーション
・セール
・新商品投入
などは、この時期に合わせると効果が大きくなります。
逆にラマダン序盤は、人々はあまり大きな買い物をしません。
消費が動き出すのは、
THRが支給された後なのです。
この流れを知らないと、
ビジネスのタイミングを間違えてしまうことになります。
インドネシア経済は「感情」で動く
私がインドネシアで暮らしていて感じるのは、
この国の消費は単なる所得だけで動いているわけではないということです。
そこには
・宗教
・家族
・文化
・感情
が強く関わっています。
ラマダンは断食の月です。
人々は自分を律し、忍耐を学びます。
そしてその後に訪れるレバランは、
喜びと感謝を分かち合う祝祭です。
この感情の高まりが、
結果として巨大な消費エネルギーを生み出しているのです。
まとめ
THRはインドネシア最大の消費スイッチ
インドネシアで毎年起きるラマダン後の消費爆発。
その裏側には、
THRという制度があります。
全国の企業が一斉にボーナスを支払い、
そのお金がレバラン文化と結びつくことで、
巨大な消費の波が生まれます。
マカッサルで生活していると、
この変化は街の空気としてはっきり感じられます。
静かだったモールが突然混み始め、
レストランが満席になり、
街全体が活気づく。
THRは単なるボーナスではありません。
それは、
インドネシア経済を動かす巨大なスイッチ
なのです。