なぜインドネシアでは「管理」より「観察」が効くのか?現場で結果を出す経営の技術
コントロールを手放した経営者が、最後に残った理由
インドネシアで事業を始めたばかりの頃、私は日本と同じように「管理」を強めれば物事は前に進むと信じていました。
KPIを設定し、期限を明確にし、報告の回数を増やし、進捗を数値で可視化する。経営者としては、ごく当たり前の行動です。
しかし、不思議なことが起きました。
会議での返事は良くなったのに、進捗は遅くなった。
報告は増えたのに、実態が見えなくなった。
管理を強めるほど、現場の動きが静かに鈍っていったのです。
そのとき、私は初めて気づきました。
ここでは「管理」がそのまま機能するわけではないのだ、と。
管理を強めた瞬間、現場は“安全運転”に入る
日本では、管理は「支援」の意味を持ちます。
期限を決めることは覚悟を促し、報告を求めることは責任を明確にする行為です。
ところがインドネシアでは、同じ行為が別の意味を持ちます。
管理が強まると、現場はまず「失敗しないこと」を優先し始めます。
挑戦よりも無難さを選び、正直な報告よりも角の立たない説明を選ぶ。
そして会議では、こう言われます。
「Bisa, Pak(できます)」
その瞬間、私は安心していました。
しかし後からわかるのです。あの「できます」は、覚悟の表明ではなく、その場を穏やかに終わらせるための言葉だったと。
管理が強くなるほど、「Yes」は増えます。
しかし、実態は見えにくくなります。
管理は情報を減らすことがある
管理をすればするほど、情報が増えると思っていました。
ところが実際には逆でした。
管理が強い環境では、人は「問題」を早く出さなくなります。
なぜなら、問題は叱責や評価低下につながると感じるからです。
結果として、問題は水面下で育ちます。
表面は静かで、報告は整っている。
しかし実態は、少しずつズレていく。
私は何度も経験しました。
「順調です」と言われていた案件が、締切直前になって急に止まる。
理由を聞くと、「実は途中で少し難しくなって…」と小さく告白される。
これは能力の問題ではありません。
文化の前提の違いです。
インドネシアでは、関係性の調和が何よりも優先されます。
場を荒らさないこと。空気を壊さないこと。
それが無意識のうちに働いています。
その環境で管理を強めると、「報告」は整いますが、「本音」は消えていきます。
観察とは、放置ではない
そこで私は、少しずつやり方を変えました。
管理を減らし、観察を増やしました。
観察とは、何もしないことではありません。
むしろ、より注意深く見ることです。
・返事のスピード
・目線の揺れ
・相談の頻度
・沈黙の長さ
数字よりも、空気の変化を見る。
あるスタッフは、返事はいつも「できます」でしたが、目が泳いでいました。
別のスタッフは、「難しいです」と正直に言う代わりに、翌日には改善案を持ってきました。
管理していた頃は、前者を評価していました。
観察するようになってからは、後者が信頼できる人材だと分かりました。
観察は、時間がかかります。
しかし、確実に“本当の動き”が見えてきます。
管理型経営が機能する場面もある
誤解してほしくありません。
管理が悪いわけではありません。
製造ラインや安全基準、コンプライアンスのように、明確なルールが必要な場面では管理は不可欠です。
しかし、プロジェクト型の仕事や新規事業、対外交渉など、柔軟性が求められる領域では、過度な管理は逆効果になることが多い。
特にインドネシアでは、現場の裁量と関係性が成果に直結します。
管理で締め付けるよりも、観察しながら「任せ続ける」方が、長期的にはうまく回ります。
任せるのではなく、任せ続ける
任せるのは簡単です。
しかし、任せ続けるのは難しい。
途中で不安になり、口を出したくなる。
期限が迫ると、手を差し伸べたくなる。
私も何度も失敗しました。
任せたはずなのに、最後は自分で抱え込む。
そのたびに、現場は少しずつ自立しなくなりました。
観察型経営は、「信じる」のではありません。
「見守りながら待つ」ことです。
待つことで、現場は考えます。
考えることで、主体性が生まれます。
なぜ観察が効くのか
インドネシアでは、人は「役割」よりも「関係性」で動きます。
上司だから従うのではなく、信頼しているから動く。
管理は役割を強めます。
観察は関係性を深めます。
この違いが、結果に直結します。
観察している経営者は、細かく指示を出しません。
しかし、現場は「見られている」ことを知っています。
その緊張感は、管理よりも自然で、持続します。
強くなったのではない。構えが変わった
振り返ると、私は強くなったわけではありません。
管理が上手くなったわけでもありません。
ただ、構えが変わっただけです。
・すぐに結論を出さない
・すぐに修正しない
・すぐに評価しない
観察することで、余白が生まれます。
その余白が、現場の成長を支えます。
インドネシアで生き残る経営者の条件
短期で結果を出したい人には、この方法は向いていないかもしれません。
数字だけで安心したい人にも、もどかしいでしょう。
しかし、長く続けたい人には、観察型経営は強力です。
なぜなら、ここでは完璧な管理よりも、柔らかい構えの方が強いからです。
最後に
インドネシアで事業をしていると、「管理すれば解決する」という発想が何度も揺らぎます。
Yesが増えても、進まない。
報告が整っても、現場は動かない。
その違和感の先に、「観察」という選択肢があります。
コントロールを手放すことは、敗北ではありません。
むしろ、経営者として一段深い場所に降りることです。
管理を減らし、観察を増やす。
それだけで、現場の景色は変わります。
インドネシアで生き残った経営者は、
強くなったのではなく、構えを変えた人たちでした。
そして私も、その途中にいます。