日清九州ブラックは、ハラルの中で豚骨風に仕上げた逸品だった
インドネシアで見つけた、驚きの日本風ラーメン
インドネシアのスーパーマーケットで偶然手に取った一袋のインスタントラーメン。「九州ブラック」という名前に惹かれて購入したこの商品が、予想を遥かに超える完成度だったのです。豚骨ラーメンの本場・九州を名乗りながら、実はハラル認証を取得し豚を一切使用していない。そんな矛盾とも思える挑戦が、見事に成功していました。
世界第2位のインスタント麺消費国であるインドネシアでは、年間約146.8億食もの即席麺が消費されています。そんな激戦区で、日清食品が放った「九州ブラック」は、イスラム教徒の多いこの国で、日本の味を再現する試みとして注目に値する商品です。
今回は、この日清九州ブラックマー油ラーメンを実際に食べてみて感じた魅力をお伝えします。
ハラル制約の中で豚骨風味を見事に再現した傑作
日清食品の「九州ブラック」は、豚を一切使わずに九州ラーメンの雰囲気を再現した、技術的にも味覚的にも優れた商品です。ハラル認証を取得しているにもかかわらず、豚骨風の味わいを楽しむことができます。
イスラム教徒が多数を占めるインドネシア市場向けに開発されたこの商品は、宗教的制約という大きなハードルを乗り越え、日本のラーメン文化を伝える架け橋となっています。
なぜ九州ブラックが優れているのか
豚不使用でありながら豚骨風の香りと味を実現している
九州のラーメンと言えば、熊本ラーメンに代表される豚骨ベースが主流です。しかし、ハラル認証を取得するには豚肉やその加工品を一切使用できません。この相反する条件の中で、日清食品は独自の技術で豚骨風の風味を再現することに成功しています。
豚を使わずにこの香りを出すのは、メーカーの技術力と研究開発の賜物と言えるでしょう。
「九州」というご当地ブランドを活用した戦略
インドネシアの富裕層、特に中の上から上のクラスの人々は、日本への旅行経験を持つ人が多く、北海道や九州といった地域名に親しみを持っています。日清食品はこの点に着目し、「北海道味噌」と「九州ブラック」という2つのご当地ラーメンをラインナップしました。
この戦略は、単なる「日本のラーメン」ではなく、より具体的で魅力的なイメージを消費者に伝えることに成功しています。旅行で訪れた思い出の地の味を自宅で再現できるという付加価値は、価格以上の価値を提供しているのです。
韓国勢が優勢な市場で日本の味を守る挑戦
インドネシアのインスタント麺市場では、近年の韓国ブームの影響で韓国製品が棚の多くを占めています。その比率は韓国5に対して日本1というほど圧倒的です。しかも、韓国製品の方が価格も高いという状況の中で、日清食品は独自の立ち位置を確立しています。
カップラーメンからカップ焼きそばまで、幅広い価格帯の商品をラインナップする日清食品の戦略は、単なる価格競争ではなく、品質と味で勝負する姿勢の表れです。九州ブラックのような独創的な商品は、その戦略の成果と言えるでしょう。
実際の商品体験から見える完成度

実際に調理してみると、細部へのこだわりが見えてくる
たとえば、麺の選択です。九州のラーメンと言えば通常は細麺が定番ですが、この商品は中太のちぢれ麺を採用しています。茹で時間は4分。これは一見すると九州ラーメンのセオリーから外れているように思えますが、実は計算されたチャレンジなのです。
中太のちぢれ麺は、スープの絡みが良く、ハラル対応で作られた特殊なスープの味を最大限に引き出す役割を果たしています。セオリーにとらわれず、最適な組み合わせを追求する姿勢がここに表れています。
実際に「マー油」と表記されているが、その正体は焦がしニンニク
パッケージには「マー油」と書かれていますが、袋をよく見ると「bawang panggang」、つまり焦がしニンニクという表記があります。実際の熊本ラーメンのマー油とは異なる味わいですが、これがむしろ良い意味での驚きを生み出しています。
確かに色は黒く、マー油の雰囲気は出ています。しかし味わいは独自のもの。本場のマー油を知る日本人からすれば「似ても似つかぬ味」かもしれませんが、それでもラーメン全体の味がかなり優れているため、この焦がしニンニクが良いアクセントになっているのです。
インドネシアのインスタント麺市場データが示す可能性
世界インスタント麺協会(WINA)のデータによると、インドネシアは2024年に約146.8億食の即席麺を消費し、中国に次いで世界第2位の消費国となっています。人口約2.84億人で計算すると、1人当たり年間約50食という驚異的な数字です。
この巨大市場で、日清食品がハラル対応商品を投入する意義は非常に大きいと言えます。インドネシアだけでなく、マレーシアやバングラデシュなど、他のイスラム圏への展開も視野に入れた戦略的な商品開発なのでしょう。
まとめ 技術と戦略が融合した、グローバル時代の日本食の形
日清九州ブラックは、宗教的制約という厳しい条件の中で日本の味を再現した、技術力の結晶です。豚を使わずに豚骨風の香りと味わいを実現し、九州というブランド力を活用し、激戦のインドネシア市場で独自のポジションを築いています。
これは単なるインスタント麺ではなく、異文化理解と技術革新が融合した、グローバル時代における日本食の新しい形と言えるでしょう。イスラム教徒も日本のラーメン文化を楽しめるという点で、文化交流の架け橋としての役割も果たしているのです。
現地生産の商品として、この品質であれば豚骨風ラーメンが恋しくなった時の十分な選択肢になります。日清食品のメーカーとしての誇りとこだわりが、一袋のインスタント麺に凝縮されていると感じました。
日清九州ブラックは、ハラル認証を取得しながら豚骨風の味わいを実現した技術的に優れた商品です。九州というご当地ブランドを活用し、年間146.8億食を消費するインドネシア市場で日本の味を守る挑戦を続けています。宗教的制約を乗り越えて文化を伝える、グローバル時代の日本食の新しい形と言えるでしょう。