「寄贈」で来る日本の中古電車。話はそう簡単ではありません
前回、日本の中古電車がまたジャカルタにやって来るという話を書きました。その続報です。
10月2日、西ジャワ州バンドンで開かれた討論会で、国鉄KAIの運行・施設・安全担当ディレクターが、日本の中古電車の導入方式について説明しました。detikFinanceの報道では、「要するに売買ではなく、寄贈(hibah)です」という趣旨の発言が伝えられています。
車両の代金は払わず、日本からインドネシアまでの輸送費などをKAIが負担します。費用がいくらになるかは、まだ計算中だそうです。同じ討論会に出ていた運輸大臣も、輸入にかかる費用はKAI側が負担すると話しています。
日本で確認し、インドネシアでもう一度確認する
手順としては、まず日本で車両の状態を評価し、インドネシアで走らせられるかを確認します。到着後には運輸省鉄道総局(DJKA)が改めて試験を行い、安全性を確かめる方針です。
報道によると、導入を予定しているのは日本で約25年使われた車両で、インドネシアではさらに10年使う計画です。
実は「寄贈」は初めてではありません
日本の中古電車がジャカルタで走るようになったきっかけそのものが、寄贈でした。Katadataが紹介する経緯によると、2000年に都営三田線の6000形72両が寄贈され、2016年まで走っています。
寄贈されるのは、あくまで車両そのものです。輸送や検査、必要な整備には別に費用がかかります。無料で受け取れることと、安く導入できることは同じではありません。
その後は購入方式が中心になり、JR東日本や東京メトロから大量の車両が渡りました。KAIの社長は今年2月、元JR東日本の780両と元東京メトロの128両が今も走っていると説明しています。いずれも製造から34〜41年たった車両です。
3年前は「中古はダメ」だった
2023年にも、KAI Commuter(KCI)は日本の中古車両の輸入を申請していました。当時の報道によると、対象はJR東日本のE217系です。しかし国内産業の育成に合わないなどの理由で、政府は認めませんでした。
代わりに、既存車両の更新、新車の輸入、国産メーカーINKAへの発注を進める方針になりました。新車3編成の輸入先は当初は日本が想定されていましたが、最終的には中国のCRRC製が選ばれています。インドネシア国会の調査資料には、2024年1月31日に購入契約を結んだことが記されています。
国産化を進めたいという政府の考えは分かります。ただ、国内で造れることと、必要な数を必要な時期に届けられることは別の話です。今回の動きを見ると、国内生産が安定するまでの移行期間を、少し楽観的に見込んでいたのではないかと思います。国産化に時間がかかっても、通勤客は毎日電車を必要とします。
今では中国CRRC製やINKA製の新車も走り始めています。それでも、古い車両の引退と乗客の増加に、新車の納入が追いついていません。9月23日の国会委員会での説明によると、利用者は1日平均約110万人で、多い日には130万人に達するそうです。
国会委員会は「つなぎ」として支持
9月23日、インドネシア下院の第6委員会は、KAIが中古車両を輸入する計画を承認しました。国内の鉄道産業を育てる方針は維持し、中古車両は当面の不足を埋めるために使うということです。
KAIが必要としているのは23編成です。内訳は12両編成が7本、8両編成が16本で、合計212両になります。12両編成に対応していないホームがまだあるため、2種類に分けたそうです。iNewsの報道では、KAIの社長が、承認を得れば1〜2か月で持ってこられるとの見通しを示しています。
ただし、国会委員会が支持したことと、輸入の許可が下りたことは別です。商業大臣は、中古の鉄道車両は「規制対象の輸入品」にあたり、まず所管省庁の推薦が必要だと述べています。関係省庁との調整は、まだ続いています。
商業大臣は、中古車両を輸入する場合、車齢は最大20年だとも説明しています。今回報じられている「約25年使用」の車両を、どのような手続きで受け入れるのかも、確認が必要です。
噂されているのは幕張の209系
日本の鉄道ファンの間では、幕張の209系が候補ではないかと言われています。房総の209系には6両編成と4両編成があり、6両を2本つなげば12両、4両を2本つなげば8両になります。この組み合わせができることも、幕張の209系ではないかと言われる理由です。
JR東日本も9月10日に、房総地区の209系を置き換えると発表しました。E233系を改造した6両編成が2026年10月から入ります。新しく造るE131系は、2027年夏以降に入る予定です。
ただし、この209系がインドネシアへ渡るという話は、ファンの推測です。私が調べた範囲では、JR東日本もKAIも、どの形式を譲渡するかは公表していません。
気になる点もあります。鉄道コムの記事でも紹介されているように、房総の209系は、もともと京浜東北線を走っていた車両を改造したものです。209系の量産車は1993年に登場しており、房総の車両も製造から30年前後たっています。報道の「日本で約25年使用」という説明とは一致しません。年数が概数なのか、別の形式を想定しているのかは、今のところ分かりません。
ちなみに209系は、開発時に「重量半分・価格半分・寿命半分」を目標にした車両です。その電車が日本で30年走り、インドネシアでさらに10年走るとすれば、相当な長生きになります。
日本側の都合で決まること
日本から見ると、車両を解体するにも費用がかかります。先ほどのKatadataの記事では、INKAの当時の社長が、日本では廃車にするのもお金がかかると話しています。引き取ってもらえるなら、日本側にも利点がある話です。
ただ、日本の鉄道会社は、自社の置き換え計画に沿って車両を手放します。幕張の209系も、後継車両が入るのに合わせて少しずつ引退していく予定です。インドネシアが欲しい時期に、欲しい数がそろって出てくるとは限りません。
現時点では、日本側が寄贈に合意したという公式な発表は見当たりません。KAI Commuterも、数量、発送時期、費用は日本の事業者と協議中だと説明しています。
「タダでもらえる」だけでは決まらない
「寄贈」「年末から発送」「承認後1〜2か月で持ってこられる」。こうした話を聞くと、あとは電車が届くのを待つだけのようにも感じます。
中国製とINKA製の新車がそろうまでの谷間を、日本の中古電車で埋めたい。その事情はよく分かります。それでも、正直なところ少し楽観的に聞こえます。
KAIが急いでいても、日本側には日本側の予定があります。欲しいときに、欲しい数を譲ってもらえるのか。私が気になるのは、そこです。
日本側の発表が出たら、改めて書きたいと思います。
※2026年10月5日時点の報道を基にしています。導入する車両の形式や、日本側の正式な寄贈合意は確認できていません。
主な出典
- 寄贈方式・費用負担・安全確認(detikFinance、2026年10月3日)
- 発送目標・日本側との協議状況(detikFinance、2026年10月2日)
- 国会委員会の支持・23編成・導入までの見通し(iNews、2026年9月24日)
- 輸入に必要な推薦・車齢20年の説明(ANTARA、2026年9月25日)
- 日本の中古電車の寄贈・購入の歴史(Katadata、2019年8月21日)
- 房総地区209系の置き換え計画(JR東日本、2026年9月10日・公式PDF)