マカッサルで暮らす。食べるたびに、この街が好きになった。
マカッサルへ来たばかりの頃、インドネシア料理は、どれも同じように見えていました。
ナシゴレン。 ミーゴレン。 ソト。 チョト。
名前も、なかなか覚えられませんでした。 正直に言えば、「また同じような味かな」と思いながら、注文していたと思います。
けれど、暮らしているうちに、少しずつ、違いが分かるようになってきました。
チョトマカッサル。 牛肉とモツを香辛料でじっくり煮込んだ、この街を代表する料理です。 最初に食べたときは、複雑すぎて、自分が何を食べているのか、よく分からないほどでした。 それでも、何度か通ううちに、少しずつ、味の輪郭が見えてきました。
パルバサも、好きになりました。 仕上げに加えるローストしたココナツが、チョトとは違う、香ばしいコクを生んでいます。 地元の人に聞くと、「チョトは普段の味、パルバサは特別な日の味」だと言う人もいます。 どちらが好きかは、今でも決めきれずにいます。
いつの間にか、同じチョトでも、店によって味が違うことまで分かるようになっていました。
港で焼いた魚には、サンバル・ダブダブが添えられます。 唐辛子とトマト、玉ねぎを刻み、ライムを搾っただけの、火を通さないサンバルです。 店ごとに、刻み方も、酸味の効かせ方も、少しずつ違います。 最初は、どれも同じ辛さに感じていましたが、今は、一口食べれば、どの店のものか分かるようになりました。
気づけば、日本へ一時帰国する前には、
「あと一回、あの店へ行っておこう」
と考えている自分がいました。 旅行で訪れていた頃は、そんなことは考えませんでした。 限られた日数の中で、少しでも多くの店を試そうとしていたはずです。 今は違います。 新しい店を探すより、いつもの店の、いつもの味を、もう一度確かめたくなります。 以前の私なら、食事は、生きるための手段の一つに過ぎませんでした。 今は、その日、何を食べるかが、一日の楽しみの一つになっています。
海も好きです。 この街の人たちも好きです。
けれど、
「五年以上、なぜここで暮らしているのですか」
と聞かれたら、私は少し考えてから、こう答えると思います。
「この街は、おいしいからです」
「今日は何を食べよう」
そう、毎日思えること。
それは、暮らしている人だけが持てる楽しみなのかもしれません。
それが、私がこの街で暮らし続けている理由の一つなのかもしれません。