朝焼けに照らす荒野と轟く火口──ブロモ山サンライズ後の絶景トレッキング
ブロモ山に朝日が差し込み、黄金色の光が山肌を照らした瞬間にツアーが終わったと思われがちですが、実際はここからが本番でした。外輪山をジープで駆け下り、灰の大地を疾走し、月面のような砂漠を自分の足で踏みしめ、火口の縁で火山の息吹を感じます。刻々と姿を変える大地のドラマは、連続する映画のシーンのように目まぐるしく続きます。サンライズ鑑賞のあとのブロモ山後半戦をお伝えします。
サンライズを見終えたその先へ
プナンジャカン山でのサンライズを存分に味わったあとは、外輪山を下りてブロモ山の火口を目指す後半戦が始まります。まだ午前六時前。太陽が昇り切るにつれて気温は少しずつ上がり、凍えるような寒さが和らいでいきました。
外輪山からカルデラへ、ジープで急降下

展望台を出るとジープは急な坂道を一気に下ります。夜の闇の中ではまったく見えなかった谷や岩肌が、朝の光を浴びて赤茶色や灰色にクッキリと浮かび上がります。

ヘアピンカーブを曲がるたび車体が傾き、窓の外には灰色のカルデラが絨毯のように広がっていました。視線を上げると、裾野を白煙で覆うブロモ山と、濃い緑をまとったバトゥ山が並び立ち、天地が逆転した油絵のような光景が広がっていました。窓の外には滝のように水が流れ落ちる細い筋も見え、たった数時間で景色が別世界に変わったことを実感しました。約15分の下りはスリリングですが、ジープにしっかり捕まっていれば問題ありません。

一面の灰で覆われた「Sea of Sand」!灰色と緑のコントラスト

外輪山を抜けると視界は一気に開け、ジープは灰の大地“Sea of Sand”に滑り込みます。見上げれば、ブロモ山が円錐形の胴体を突き出し、火口からは絶え間なく白煙を吐き上げています。その白と灰の世界の中で、隣のバトゥ山だけが濃いエメラルドグリーンをまとい、まるで二つの世界が衝突しているかのようでした。灰の大地に水気はなく、外輪山に刻まれた複数の切れ目を通して雨は外へ流れ出してしまうとガイドが教えてくれました。だからこそ湖が生まれず、ジープが自由に走れる“Sea of Sand”が保たれているのです。

車を降りるとサラサラの灰が足首まで沈み込み、一歩ごとに小さな砂埃が舞い上がりました。
月の砂漠を歩いて火口へ

カルデラ中央にそびえるブロモ山へ向かうには、馬に乗るか徒歩で灰の平原を横切る方法があります。馬を選べば火山灰を浴びずに済みますが、私は自分の足で大地を感じたくて徒歩を選びました。足首まで沈む灰は思った以上に柔らかく、僅かな傾斜でも太ももにじわりと負荷がかかります。しかし、靴底から伝わるザラザラとした質感は、「私はいま地表を歩いているのだ」という確かな実感を与えてくれました。

途中、ヒンドゥ寺院「プラ・ポトゥン」がひっそりと佇み、その黒い石壁には朝の斜光が当たり彫刻の陰影がくっきりと浮かび上がっていました。デングル族が今も続ける供物の文化に触れながら、心の中で静かに手を合わせます。寺院を過ぎる頃には気温がぐっと上がり、半袖でも気持ちよい気温になりました。まさに月面を歩いているかのような感覚を覚えました。

275段の石段──急斜面の試練

視界に飛び込んできたのは、灰色の斜面に刻まれた一直線の石段でした。近づくにつれて傾斜は想像以上に急で、見上げても頂上が見えないほどです。段数は275段。灰が積もり、石と石の隙間は滑りやすい状況ですので、呼吸を整え、一歩一歩足を置く位置を確かめながら上りました。

途中、硫黄の匂いが微かに鼻をかすめ、火山が今も生きていることを思い出させます。20分ほどで太ももが悲鳴を上げ始めましたが一気に上がります。振り返ると灰の平原がミニチュアのように小さくなり、ジープの走行跡が蜘蛛の糸のように交差しているのが見えました。息切れと達成感を胸いっぱいに感じながら、最後の数段を踏みしめました。
巨大クレーターと硫黄の臭い

石段を登り切った瞬間、その迫力に思わず息をのみました。直径六百メートルを超えるクレーターは、灰色の岩壁が荒々しく削られ、底からは白い蒸気が勢いよく噴き上がっています。地球の中心に直結しているかのような深い裂け目を前に言葉を失いました。

火口縁を時計回りに歩くと、角度によってカルデラと遠景のスメル山が大パノラマとなります。蒸気が風で流れ、視界が開けた一瞬、灰の平原の向こうにそびえる山々が一斉に朝日を浴び、絵画のような光景が目の前に広がりました。その壮大さに胸が熱くなりました。

昼の景色を眺めながら帰路へ

火口を見学したら石段を慎重に下り、灰の平原を戻ってジープに乗車。帰り道は外輪山を再び登りますが、昼の光で草原と崖のディテールがはっきり見え、夜の通過時にはただの黒い壁だった場所が、実は黄緑色の草で覆われていたことに気づきました。小さな滝が流れ落ち、ジープのタイヤ痕がリボンのように延びている様子も確認できます。灰色の荒野からわずか数キロで緑の高原に切り替わる景色の変化に驚かされました。

お昼12時ごろマランのホテルに戻りツアーは終了。濃密な12時間の体験でした。