人生で一番おいしいドリアンに、ビアク島で出会った
夕方になると、人が集まってくる市場があります。

ビアク島の、TIPTOPという小さな船着き場の道端。日が傾いて街灯が灯り始めるころ、シートの上にドリアンが山のように並びます。仕事帰りの人、家族連れ、バイクで乗り付けた若者たち。みんな慣れた手つきで実を選んで、その場で割ってもらい、道端やベンチに座ってそのまま食べています。夕方になると自然と人が寄ってくる、そういう場所でした。
自分もその中に混ざって、一盛り買ってみました。四個で五万ルピア。

これまで自分の中で一番だったのは、スラウェシで食べてきたモントンです。品種として名前も通っていて、味も安定しています。値段は一個三十万ルピア前後。高いなりの理由がある、と長年思ってきました。
売り手が実を割ってくれます。パキッと音がして殻が開くと、中は鮮やかな黄色。表面につやがあって、柔らかそうでした。売り手はこれを「クニン(黄色)」と呼んでいました。隣には牛乳っぽいクリーミーな「スス」もありましたが、選んだのはクニンの方。
一口食べて、手が止まりました。

これまで食べてきたモントンとは、甘さの感じ方が違います。奥のほうに濃いコクとかすかなほろ苦さがあって、飲み込んだあとも香りがずっと残ります。長年一番だと思っていたものが、道端のベンチで、あっさり塗り替えられました。
四個で五万ルピア、一個あたり一万二千五百ルピア。モントン一個分の値段があれば、こちらは二十四個、六盛りも買えます。大きさも果肉の量も違うから単純には比べられないけれど、この値段でこの味に出会えたことに、しばらく呆気にとられていました。
気になって、売り手に聞いてみました。「このクニンは、どこの村のもの?」返ってきたのは、ビアクの南に浮かぶヤペン島・セルイという地名。海を渡って届いた実を、自分はビアクの夜の市場で、地元の人たちに交じって食べていたことになります。帰ってから調べると、セルイ産のドリアンは周辺の街にも出荷されていて、味の評判も地元では知られているようでした。ビアクで出会った味の裏側に、もう一つ別の島がありました。

TIPTOPについても調べてみると、以前から、ヤペン島などから果物を積んだ小型の動力船が集まる船着き場だったようです。ドリアンやランブータンを積んだ船でにぎわう様子が紹介されています。目の前に並んでいた実も、こうして海を渡ってきたのでしょう。船着き場のそばにドリアンがずらりと並んでいることに、納得しました。
売り切れたらどうするのか聞くと、おばちゃんは「明日また新しいのが届くから」と、あっさり言いました。
旬のドリアンが手頃な値段でずらりと並び、夕方になると人が集まってきます。どうやら、いい季節に居合わせたようです。あの日あの一盛りが、長年かけて自分の中にできていた「一番」を塗り替えたことだけは確かです。
これから先、ビアクを思い出すとき、きっとあの黄色い果肉と、街灯の下でドリアンを頬張る人たちの姿を、一緒に思い出すのだと思います。
