人口600万人のシンガポール航空は、なぜ人口2億8,000万人のガルーダより強いのか

Airplane Indonesia

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先日、マカッサルからパプアニューギニアへ向かう旅程を組んでいて、ふと引っかかることがありました。

マカッサル→ジャカルタ→シンガポール→ポートモレスビー。

東部インドネシアから太平洋地域へ向かう旅なのに、結局いちばん重要な乗り継ぎ地点になるのは、ジャカルタではなくシンガポールのチャンギ空港なのです。

そういえば、ジャカルタ―シンガポール線を見ていても、同じような違和感がありました。ガルーダ・インドネシアはこの路線にB737を飛ばしています。一方、シンガポール航空はB777やA350などの大型機を、何往復も投入しています。飛行時間はわずか1時間半ほどしかありません。なぜSQは、この短い距離にこれほど大きな機材を使えるのでしょうか。

最初は単純に、人口600万人ほどの小さな国が、人口2億8,000万人のインドネシアより大きな航空会社を持っていることが、不思議でした。しかし調べていくと、SQが運んでいるのは、シンガポールへ行く人だけではないことが見えてきました。

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SQにとって、ジャカルタ便は「シンガポール行き」ではない

ガルーダのジャカルタ―シンガポール便にも、インドネシア国内各地からの乗り継ぎ客はいます。しかし、その先の国際線ネットワークはSQほど広くありません。

一方、SQにとってこの路線は、ジャカルタから世界中の乗客をチャンギへ集めるための重要な路線でもあります。ジャカルタから運ばれた乗客は、チャンギ空港で乗り換え、東京、ロンドン、パリ、フランクフルト、シドニー、ロサンゼルス、ニューヨークなど、世界中の目的地へ向かっていきます。

SQはB777やA350を、ジャカルタ―シンガポールの1時間半だけのために飛ばしているわけではありません。この路線を単独の1時間半の便として見ていては、大型機を投入する理由が説明できないのです。インドネシアの乗客は、シンガポール経由で世界の目的地まで運ばれていきます。

インドネシアから米国への直行便はありません。そのため米国へ向かう人は、シンガポール、東京、台北、ソウルなどで乗り継ぐことになります。なかでもSQは、ジャカルタ―シンガポール線を高頻度で運航し、その先に米国各都市への長距離路線を持っています。インドネシアで生まれた米国行きの需要なのに、長距離運賃はSQの売上になり、乗り継ぎの実績はチャンギに積み上がり、空港での買い物や食事もシンガポールに落ちていきます。

欧州へ向かう場合も、事情はよく似ています。ガルーダが自社便で就航している欧州の都市は、実質的にアムステルダムだけです。しかも毎日運航ではなく、週に数便程度。ロンドンやパリ、ミラノ、フランクフルトへ行きたい人は、結局アムステルダムでKLMなどへ乗り継ぐ必要があります。そのため多くの人は、SQでシンガポール経由、あるいはエミレーツでドバイ経由、カタール航空でドーハ経由といった選択肢を選びます。ロンドンやパリへ向かう需要は確かにインドネシアにあるのに、その利益を得ているのはシンガポールや中東の航空会社です。

発着枠を奪われたから、というだけの話ではない

ジャカルタの発着枠が限られるなかで、SQなど外国航空会社が多くの便を運航している。これがガルーダを弱くしているように見えることもあります。

しかし、ジャカルタ―シンガポール線だけを見れば、ガルーダも1日複数便を運航しており、バティック・エアやシティリンクなど他のインドネシア系航空会社も参入しています。ですから、インドネシア側が運航権や発着枠をまったく活用できていないわけではありません。

本当の差は、その先にあります。ガルーダは乗客をシンガポールまで運べても、そこから欧州や米国まで自社便でつなぐネットワークをほとんど持っていません。一方、SQはジャカルタから集めた乗客を、チャンギ経由で世界各地まで運ぶことができます。便数だけではなく、機材の大きさと、その先に広がる国際ネットワークに大きな差があるのです。

つまり、両社の差は単純な便数ではありません。1便の先に、どれだけ大きな国際ネットワークをつなげられるか。その違いが、同じ発着枠から生み出す価値の差になっているのです。

国営だから弱い、というわけでもない

ガルーダが国営企業だから失敗した、と考えたくなるところですが、実はシンガポール航空も、政府系投資会社テマセクが大株主です。国営か民営かという違いだけでは、説明がつきません。

違うのは、国が航空会社をどう位置づけ、空港・観光・外交とどう一体化させてきたか、という部分です。ガルーダは、国内路線網の維持やハッジ輸送など、国家的な役割も担いながら、政府方針の影響を受けやすい立場に置かれてきました。過去には機材調達をめぐる不祥事もあり、急速な事業拡大の過程で高額なリース契約を抱え、最終的には大規模な債務再編を必要とするところまでいきました。

一方のシンガポールは、空港、航空会社、観光政策、入国制度をほぼ一体として設計してきました。同じ政府系企業でも、ガルーダは「国内交通を支える国営企業」として、SQは「世界から利益を集める国家産業」として、それぞれ育てられてきたのでしょう。

シンガポールには、国際線で稼ぐしか道がなかった

シンガポールには国内線がありません。人口も600万人ほどしかいません。自国民だけを運んでいたのでは、大きな航空会社にはなれない。そのため、周辺国から乗客を集める必要がありました。インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンなどから乗客をチャンギへ集め、そこから世界へ運ぶ。小国であることは弱点ではなく、国際ハブに徹するしかない理由になりました。

反対にインドネシアは、国内だけで巨大な市場を持っています。ジャカルタ、スラバヤ、マカッサル、メダン、バリ、パプアを結ぶだけで、飛行機は十分に埋まります。難しい国際乗り継ぎ需要を、あえて取りに行く必要性が弱かったのでしょう。

マカッサルからPNGへ向かう旅にも、同じ構造が見えた

冒頭に書いた、マカッサルからパプアニューギニアへ向かう旅程も、まさにこの話の縮図でした。東部インドネシアから太平洋地域へ向かう需要であるにもかかわらず、国際的な結節点になっているのはジャカルタではなく、シンガポールなのです。利用する航空会社がガルーダとエア・ニウギニであっても、乗り継ぎ空港としての利用実績や、空港内での飲食・買い物による消費は、チャンギ空港に積み上がっていきます。

本来、マカッサルは東部インドネシア、豪州、パプアニューギニア、太平洋地域を結ぶ拠点になれる場所です。それなのに現状は、一度ジャカルタやシンガポールを経由しなければならない。地理的な条件は決して悪くないだけに、少しもったいなく感じます。

需要を生み出すインドネシア、需要を束ねるシンガポール

航空需要そのものは、間違いなくインドネシアにあります。人口は多く、国土は広く、中間層や富裕層も増え続けています。日本、欧州、米国、豪州へ向かう需要も十分にある。それなのに、国際長距離運賃、ビジネスクラス、航空貨物、乗り継ぎ客の消費といった、航空をめぐる付加価値の高い部分は、シンガポールや中東へ流れていってしまっています。

これは、航空だけの話ではないとも思います。インドネシアには原料と市場がある。一方でシンガポールは、それを集め、加工し、仲介し、世界へつなぐことで付加価値を得ています。港湾や物流、金融にも通じる話です。

インドネシアが航空需要でシンガポールに負けているわけではありません。乗客の数でも、潜在的な市場規模でも、インドネシアの方がはるかに大きいのです。それでもシンガポール航空が強いのは、その需要を一か所に集約し、世界各地へ接続し、大きな収益へ変える仕組みを持っているからだと思います。

インドネシアは、乗客を生み出しています。 シンガポールは、その乗客を世界へ運び、利益に変えています。

人口600万人の小さな国が、人口2億8,000万人の隣国を、自国よりはるかに大きな後背市場として使いこなしている。そう考えると、シンガポール航空の本当の強さは、機内サービスや最新鋭の機材だけではないのだと思います。シンガポールという小さな国の外側に、自国よりはるかに大きな市場をつくったこと。そこにこそ、その強さの本質があるのでしょう。

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