マカッサルで、人生をやり直してみた 私は、人生をやり直したのだろうか。

Indonesia Makassar

記事の冒頭
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第10話(最終回)

日本を出た日のことを、今でも覚えています。

あの日の私は、本気で人生をやり直せると思っていました。

空港のロビーで、搭乗を待ちながら、ぼんやりと考えていました。これから人生をやり直すのだ、と。具体的に何をやり直すのか、その時はよく分かっていませんでした。ただ、このままでいたくない、という気持ちだけははっきりしていました。

50歳でした。遅いと言う人も、いたかもしれません。荷物は思ったより少なかった。でも、頭の中はいろいろなものでいっぱいでした。不安。期待。それから、少しの後ろめたさ。

飛行機の窓から日本の景色が遠ざかっていくのを見ながら、私は「人生をやり直す」という言葉の意味を、まだ何も分かっていませんでした。

マカッサルへ来てから、5年が経ちました。

この5年間で、失ったものはたくさんあります。

時間。お金。思い通りにいかなかった日々。自信を無くしかけた夜。工場がなかなか動かなかった頃、布団の中で「日本へ帰った方がいいのではないか」と考えたこと。日本にいれば経験しなかったかもしれない、たくさんの失敗。

人生をやり直そうとして、思い通りになったことの方が少なかったかもしれません。

でも、この5年間を振り返ると、いくつかの場面が浮かびます。

工場が動かない間も、毎朝来続けてくれたスタッフ。漁師さんとの交渉で、私の代わりに前へ出てくれたスタッフ。

「見ても、分からないんです。」

あの言葉で、私は25年間の経験を初めて言葉にできないものだと知りました。

そして、うまくいかない朝に声をかけてくれたスタッフ。

「社長、大丈夫ですか。」

どれも、私が想像していた「人生のやり直し」とは違う場面でした。でも今思うと、あの場面たちが、この5年間でした。

日本を出た頃の私は、人生はどこか遠くにあると思っていました。

今いる場所ではなく、もっと先に。今の自分ではなく、もっと違う自分になった先に。だから50歳で会社を辞めて、海を渡りました。

でも今は、少し違います。

朝、工場へ向かう。スタッフと笑う。タコを選別する。漁師さんと話す。うまくいかないことが起きる。また考える。また動く。

そんな毎日の中に、人生はありました。

遠くにあるのではなく、ここにあったのかもしれません。それに気付くまでに、5年かかりました。あるいは、5年経った今も、まだ気付いている途中なのかもしれません。

第1話でこう書きました。

「どうして私は、ここにいるんだろう。」

今もその問いに、うまく答えられません。

ただ、あの頃と少し違うのは、その問いを抱えたまま工場へ行けるようになったことです。答えが出なくても、今日の仕事は始まります。漁師さんが来ます。スタッフが来ます。タコが届きます。

答えを出してから動くのではなく、動きながら答えを探している。今の私は、そういう生き方をしているのかもしれません。

人生をやり直したのかどうか。

その答えは、まだ分かりません。

でも、今日も私は、この工場へ向かいます。

今日も工場では、

誰かが笑っています。

私も、笑っています。

マカッサルで、人生をやり直してみた。

記事の最後
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