ガソリンがない。ガスもない。水も出ない。そして電気も止まった。
9月7日、車に燃料を入れようとガソリンスタンドへ向かうと、道路まで車列が延びていました。家に戻れば水が出ず、夕方には停電。料理に使う3キロのLPGも、近所では見つかりません。
2026年9月、マカッサルでは、生活に必要なものが同時に手に入りにくくなるという、これまで経験したことのない状況が起きています。
ガソリンスタンドでは燃料が品切れになり、料理に使うガスも手に入りにくい。蛇口をひねっても水が出ず、さらに電気まで止まりました。厳密には、不足しているのは主に補助金付きの軽油(Biosolar)で、いわゆる「ガソリン」そのものではありません。ただ、市民の感覚としては「燃料がない」という言葉がいちばん実態に近いように思います。
一つひとつであれば、この街では珍しいことではありません。停電もある。断水もある。燃料が少し混み合うこともある。けれども今回は、そのすべてが同じ時期に重なりました。
ガソリンスタンドにできた長い列
まず目につくのは、ガソリンスタンドの光景です。
特に不足しているのは、補助金付きの軽油(Biosolar)です。スタンドによっては、ガソリンのPertaliteまで品切れになっているところもあり、トラックや車が道路にまではみ出して列をつくっています。
国営石油会社のPertaminaは、供給そのものは続いているものの、需要の増加によって、一部のスタンドでは通常より早く在庫がなくなっていると説明しています。農繁期や物流需要の増加、補助金付きの燃料とそうでない燃料との価格差が、特定のスタンドに需要を集中させているようです。
供給は続いているのかもしれません。しかし、給油できない市民にとって、それは実質的に「燃料がない」のと同じことです。
料理をしたくても、LPGが見つからない
家庭や飲食店にとって、もう一つ切実なのがガスの問題です。
主に不足しているのは、補助金付きの3キロボンベです。マカッサルだけでなく、隣接するゴワなど周辺地域にも不足は広がっており、通常21,000ルピア前後のボンベが30,000ルピアほどで取引されているという報告もあります。家庭だけでなく、ワルン(小さな食堂)でも、ガスを求めて店を何軒も回る人の姿が見られます。
Pertaminaは社会活動や農業需要、マウリッド(預言者生誕祭)期の需要増加を理由に挙げていますが、それだけで説明できるのかという疑問の声もあります。流通の偏りや不正転売を疑う声もあり、当局による供給・販売状況の確認が進められています。
蛇口をひねっても、水が出ない
四つの問題のなかで、もっとも長引く可能性があるのが水不足です。
今年は乾季が長く続いており、マカッサルの水源の一つであるマロスのLekopancing取水源が深刻に干上がっています。水位は、水位計でマイナス160cmと、通常を大きく下回る状態です。水の供給自体は続いており、取水ゲートを90cmの高さまで開けて対応していますが、PDAMへ送られる水量は大きく減少しています。マカッサルの一部地域では給水量が大きく落ち込み、水が出る時間が限られている家庭もあります。私の周囲でも、夜中や早朝にわずかな時間しか水が出ないという話を聞きます。
水道公社のPDAMは、給水車や小さな路地にも入れるタンク搭載ピックアップで対応していますが、街全体に十分な水を届けるのは容易ではなく、雨が本格的に戻らなければ根本的な解決にはならないというのが実情です。
水がないところに、停電が追い打ちをかける
そこに追い打ちをかけているのが、停電です。
背景には、PLTU IPPジェネポントの整備などにより、地域全体の電力供給力が一時的に低下したことがあります。PLNは9月5日ごろまでの改善を見込んでいましたが、その後も地域によって停電が発生していました。9月7日にはジェネポントの発電設備が再び供給を開始したと報じられており、電力事情は改善に向かっているものの、生活への影響はすでに広く及んでいます。
停電は、水の問題をさらに悪化させます。停電になると家庭のポンプが動かず、集合住宅ではPDAMから水が来ていても上階まで送り上げられません。スタンドや店舗、工場の冷蔵設備にも影響が及びます。
私たちのような水産加工会社にとって、電気と水は事業の生命線です。冷凍庫を動かし、原料を洗浄し、製品を安全に保管する。そのどれもが、電気と水がなければ成り立ちません。今回の停電は、単なる不便ではなく、品質管理や事業継続に直結する問題として受け止めています。
四つの不足は、一つの原因ではない
ここで整理しておきたいのは、これらが一つの大きな災害によって起きたわけではない、ということです。
燃料不足は、需要増加や流通の偏りが原因とみられている
LPG不足も、需要増加や配送・販売網の問題とみられている
断水は、長い乾季と水源の低下
停電は、発電設備の供給力低下(改善に向かっている)
一つひとつを見れば、原因はそれぞれ異なります。しかし、電気が止まれば水を送るポンプが動かず、給油所や店の営業にも影響します。燃料不足が長引けば、給水車や物流にも影響が及ぶ可能性があります。別々の問題が重なり合い、街の暮らしを少しずつ不安定にしているのです。
本当に足りないのか、それとも届いていないのか
もう一つ、考えさせられる点があります。
Pertaminaは、在庫や供給量そのものは確保されていると説明しています。しかし現場では、長い列と品切れが続いています。「量が足りていない」のか、それとも「必要な場所に届いていない」のか。この二つは、似ているようでまったく違う問題です。
警察は、補助金付きのBiosolarについて、流通上の不正がなかったか調査を始めています。Biosolarの一部がモロワリの鉱山地域へ流れているという情報もありますが、警察はまだ結論を出しておらず、今後の調査対象としています。LPGについても、Pertaminaや販売関係者などと供給状況を確認する方針です。行政や国営企業の説明と、市民が実際に目にしている光景との間には、まだ隔たりがあるように感じます。
インフラがあることと、使えることは違う
マカッサルには、水道や燃料供給網、物流網があり、街を支える発電設備も周辺地域に整備されています。それでも、そのどこかが少し崩れるだけで、生活は簡単に止まってしまう。今回の出来事は、インフラが「あるかないか」ではなく、どれだけ安定していて、いざというときに代わりの手段があるかが問われている、ということを教えてくれます。急速に伸びる人口と経済に、それを支える基盤の整備がまだ追いついていない。そのひずみが、今回の複合的な不足として表面に出てきたのだと思います。
便利になったはずの街で考えたこと
マカッサルには、この10年で新しいモールができ、高層住宅が建ち、ホテルや飲食店も次々と増えました。街は目に見えて発展しています。
しかし、その暮らしを支える電気、水、燃料は、まだ決して盤石ではありません。日本にいたころは当たり前だと思っていたものが、ここでは当たり前ではない。そのことを、あらためて実感しています。
ガソリンがない。ガスもない。水も出ない。そして電気も止まる。
2026年9月のマカッサルで起きているのは、単なる一時的な不便ではありません。急速に発展する街の足元に残されていた弱さが、一度に表面へ現れた出来事なのだと思います。
新しい建物が増え、街が便利になっていくことと、安心して暮らせることは、必ずしも同じではない。そのことを、電気の消えた部屋で、水の出ない蛇口を見ながら考えています。
※状況は2026年9月8日時点のものです。