海外で暮らして初めて分かった、日本のすごさ 日本を出て、初めて日本が見えた
50歳から人生を変えてみた 第8話
インドネシアへ来て5年。マカッサルは今や私にとって第二の故郷です。この街で会社を作り、多くの人に助けられ、多くのことを学びました。
しかし同時に、日本を離れたからこそ見えてきたものがあります。
それは、日本という国の本当の強さでした。
若い頃は当たり前すぎて気付かなかったこと。海外で暮らして初めて分かった、日本のすごさについて書いてみたいと思います。
日本を出て、初めて日本が見えた
若い頃の私は、日本について深く考えたことがありませんでした。
電車は時間通りに来る。宅配便は翌日に届く。水道をひねれば水が出る。お店の商品は品質が揃っている。
それが当たり前でした。当たり前すぎて、ありがたみを感じることもありませんでした。
しかし海外へ出ると、その当たり前が当たり前ではないことに気付きます。
5年暮らしてみて思うのです。日本のすごさは、電車が時間通りに来ることでも、コンビニが便利なことでもありません。もちろんそれも素晴らしい。でも本当にすごいのは、その土台にあるものです。
それは「信用」です。
約束を守る。品質を守る。相手を裏切らない。そうした積み重ねが、日本という社会を支えている。私はタコの仕事を通じて、そのことを痛感するようになりました。
時間を守るという、ものすごい価値
インドネシアで暮らして最初に驚いたのは、時間の感覚の違いでした。
10時の約束が10時半になる。明日と言われたことが来週になる。最初は苛立ちました。なぜ守らないのか。なぜ遅れるのか。そう思っていました。
でも5年暮らして分かったことがあります。日本が特別だったのです。
日本では「10時に行きます」と言われたら、本当に10時に来ます。私たちはそれを当然だと思っています。しかし世界では、必ずしも当然ではありません。
時間を守るということは、相手の時間を大切にするということです。そしてそれを当たり前にできる社会は、実はとても珍しい。日本の外に出て、初めてそのことが分かりました。
日本が求める品質とは何か
水産業をやっていると、品質の違いをさらに強く感じます。
日本のお客様は厳しいです。タコのサイズ。鮮度。歩留まり。異物混入。表示の正確さ。細かいところまで確認が入ります。
最初の頃は、正直「ここまで見るのか」と思うこともありました。インドネシア側の感覚では「これで十分だろう」と思えるものが、日本の基準では通らない。
しかし今は違う見方をしています。
日本が品質にここまでこだわる理由は、単に厳しいからではありません。品質を守ることが、信用を守ることだからです。
信用は、タコだけでは作れない
ここで、私が一番苦労したことをお話しします。
会社を立ち上げた当初、私は「良いタコを作れば売れる」と思っていました。
しかしそれは大きな勘違いでした。
日本のバイヤーが見るのは、タコそのものだけではありませんでした。工場の衛生管理はどうか。従業員の教育はできているか。製造工程は適切に記録されているか。異物が混入するリスクはないか。温度管理は徹底されているか。
つまり、商品の裏側にある「仕組み」全体を見ているのです。
考えてみれば当然のことです。どれだけ良いタコが一度届いても、次も同じ品質が保証されなければ、継続して取引はできません。品質とは一回の結果ではなく、再現性のある仕組みのことなのです。
新しい会社にはその仕組みがない。実績もない。歴史もない。
だから最初は、どれだけ良い商品を持っていっても、信用してもらえない。それが現実でした。
信用は積み重ねるしかない
では、どうすれば信用は生まれるのか。
答えは単純です。積み重ねるしかありません。
私たちは工場の衛生管理を一から整えました。床の清掃方法から、作業着の管理、手洗いのタイミングまで、一つひとつルールを作りました。しかし決めるだけでは終わりません。それを従業員に理解してもらい、習慣にしてもらうことが、実は一番難しかった。
文化が違う。言葉も違う。「なぜこれをやるのか」という理由を丁寧に伝えなければ、形だけのルールになってしまう。何度も説明して、現場を確認して、また改善する。その繰り返しでした。
製造記録をきちんと残す仕組みを作ったのも、同じ理由です。問題が起きた時に、どこで何があったかを追跡できる記録がなければ、改善もできない。信用を積み上げるとは、そういう地道な仕組みづくりの連続です。
約束した品質を守る。納期を守る。問題が起きたら誠実に報告する。改善して、また守る。その繰り返しの中で、少しずつ取引先との信頼関係が生まれていきました。
5年経った今でも、まだ途中だと思っています。信用に「完成」はないからです。
本当にすごいのは「信用の社会インフラ」だった
海外で仕事をして気付いたことがあります。
日本は、信用そのものが社会インフラになっている国だということです。
日本では「来週持っていきます」と言われたら、本当に来週持ってきます。確認しない。念押ししない。それでも回る。インドネシアでは違います。確認する。再確認する。念押しする。バックアップも準備する。そうしないと仕事が止まることがある。
どちらが良い悪いではありません。ただ、日本がいかに「信用を前提とした社会」の上に成り立っているかが、外に出ると初めて分かります。
そしてその信用は、私たちの工場づくりと同じです。誰かが一朝一夕に作ったものではない。何十年、何百年にわたって、無数の人が約束を守り続けてきた積み重ねの結果なのです。
日本人で良かったと思う
私はインドネシアが好きです。マカッサルは第二の故郷です。ここで人生の後半を過ごせていることを幸せに思っています。
しかし同時に、日本人であることも誇りに思っています。
日本を離れたからこそ、日本の良さが見えるようになった。それがこの5年間で得た大きな気付きの一つです。若い頃には分かりませんでした。当たり前すぎたからです。
でも今は分かります。
日本の本当の強さは、技術でも経済力でもありません。人と人との間にある「信用」、そしてその信用を守り続けようとする文化そのものなのだと。
そしてそれは、日本にいる限り気付けないことかもしれません。一度外に出てみて、初めて見えるものです。
次回は、
「海外で暮らして分かった、日本人の弱さ」
について書いてみたいと思います。
良いところだけではなく、海外に出たからこそ見えた日本人の課題についても、正直に書いてみたいと思います。