パプアに来て驚いた。市場に並ぶ、ブアイ、ブアイ、ブアイ
新しい土地に行くと、市場には必ず立ち寄るようにしています。水産の仕事をしていることもありますが、市場を歩くと、その土地の人が何を食べ、何を買っているのかがよくわかるからです。
アロタウでも、まずは市場へ向かいました。

入口で見つけた、日本の国旗

市場の入口近くで、見慣れた国旗が目に入りました。日本とパプアニューギニアの国旗が並んだ銘板です。
そこには「アロタウ町市場及び水産施設改修計画」「日本国民からの無償援助」と書かれていました。年号は2019年。この市場は、日本の援助で整備されたものでした。
遠く離れたパプアニューギニアの地方の町で、日本の名前を見るとは思っていませんでした。
中に入ると、大きな屋根の下に売り場が広がっています。通路も広く、建物はきれいでした。売り手も買い物客も多く、よく使われている市場だとわかります。
野菜もある。でも、目につくのはブアイばかり

売り場には、イモやバナナ、トマト、葉物野菜などが並んでいます。ここまでは、どこの市場でも見かける光景です。
ところが、歩いているうちに気づきました。とにかく、ブアイが多いのです。

一軒だけではありません。その先にも、またその先にも、ブアイを売る人がいます。小分けにされた緑の実が並び、売り手の後ろには、実の詰まった大きな袋も積まれていました。
これだけの量を、どれくらいの人が買っていくのだろうと思いました。
インドネシアでいう「ピナン・シリ・カプル」
ブアイは、ビンロウヤシの実です。パプアニューギニアでは「ブアイ」と呼ばれています。
インドネシア側のパプアでも、ビンロウを噛む習慣があります。インドネシアでは「ピナン(ビンロウの実)」「シリ(キンマ)」「カプル(石灰)」の3つを組み合わせて噛むので、私にとってもなじみのある光景です。


パプアニューギニアでも、同じように組み合わせます。実と一緒に、「ダカ」と呼ばれる細長いキンマの花穂と、「カンバン」と呼ばれる石灰を噛むそうです。売り場には、細長い緑色のものや、白い粉の入った袋も並んでいました。
この組み合わせを最初に考えたのが誰なのかは、わかっていないそうです。パプアだけの習慣ではなく、東南アジアから太平洋にかけての広い地域に昔からあるもので、文字の記録よりも古くから受け継がれてきたといいます。
植物を組み合わせるのはわかります。でも、石灰まで加えるのは不思議です。
調べてみると、石灰は単なる添え物ではなく、口の中をアルカリ性にして、ビンロウの成分が吸収されやすくなる働きがあるそうです。
なぜ、そこまで噛み続けるのだろう
アロタウに来てから、ブアイを噛んでいる人をよく見かけました。私が見た範囲では、本当に多くの人が、ずっと噛み続けているように見えます。
文化や習慣だと聞きますが、それだけで、これほどの量が売れるものなのでしょうか。
調べてみると、ブアイには「アレコリン」という成分が含まれていて、噛むと目がさえたり、気分がほぐれたりする作用があるそうです。その感覚を求めて繰り返すうちに習慣になり、依存が生じることもあるといいます。やめると、いら立ちや集中力の低下が出ることもあるそうです。
もう一つは、人付き合いです。パプアニューギニアでは、人と会ったときにブアイを分け合ったり、一緒に噛みながら話したりすることが、付き合いの一部になっています。日本でお茶を出すような感覚に近いのかもしれません。
文化として続いていても、体への影響はある
一方で、気になることもあります。
ビンロウの実そのものに発がん性があり、たばこを混ぜなくても、口腔がんなどのリスクがあるそうです。WHOの専門機関であるIARC(国際がん研究機関)は、ビンロウの実を「ヒトに対して発がん性がある」グループ1に分類しています。
白い石灰を口に入れることも、気になりました。アルカリ性なので歯が溶けるのではないかと思ったのですが、歯を溶かすのは主に酸だそうです。ただ、石灰は口の粘膜や歯ぐきを傷めることがあります。硬い実を繰り返し噛むことで歯がすり減ったり、歯周病につながったりすることもあるといいます。
売る人にとっては、大切な収入源

市場を歩いていると、ブアイを売っている人の多さにも気づきます。
ブアイは、育てる人だけでなく、運ぶ人、仲買人、市場で小分けして売る人の仕事にもなっています。店先に並んだ分だけでも多いのに、後ろには大袋がいくつもあります。扱っている量の多さに驚きました。
日本の援助で整備されたアロタウの市場。いちばん印象に残ったのは、何軒も続くブアイの売り場でした。噛む習慣があることは知っていましたが、これほどの量を見るのは初めてでした。