マカッサルに健康ジュース革命は訪れるのか?砂糖ゼロの「Re.juve」が挑む市場の壁

Indonesia Makassar

マカッサルに登場した砂糖無添加のコールドプレスジュース店「Re.juve」。砂糖文化が根付くインドネシアで、健康志向の選択肢は根付くのか。実際に飲んだ感想、価格、味、そして市場の現実と課題まで、現地生活者の視点からお伝えします。

甘すぎるインドネシアのジュース文化との決別

インドネシアで生活していると、誰もが一度は経験する「ジュースの甘さショック」に驚かされます。レストランやカフェで注文したフルーツジュースを一口飲んだ瞬間、舌が刺されるような甘さを感じることも珍しくありません。砂糖が大量に投入されたジュースは、もはや健康飲料というよりデザートといえるほどです。

インドネシアでは砂糖入り飲料の消費が多く、国民が1日に摂取する砂糖量はWHO(世界保健機関)の推奨値(1日25g以下)を超える傾向にあります。これは多くの人が甘い飲み物を日常的に選んでしまうことが一因です。

糖尿病の患者数も少なくありません。国際糖尿病連合の推計では、インドネシアは世界で5番目に糖尿病患者数が多い国であり、成人(20〜79歳)の患者数は約2,040万人と報告されています。

私自身、インドネシアに来てから甘いジュースをほとんど飲まなくなりました。日常的に飲むのは砂糖なしの紅茶(Teh Tawar)やブラックコーヒーです。健康を気遣う選択としては正しいものの、正直なところ「罪悪感なく美味しいフルーツジュースを楽しみたい」という思いを抱いていました。

そんな折、マカッサルのモール「Ratu Indah Mall」を歩いていると、「Re.juve」という店舗のプロモーションが目に飛び込んできました。「砂糖ゼロ」「100%フルーツ&野菜」という看板に引き寄せられ、思わず足を止めました。

これは、インドネシアの甘すぎるジュース文化に一石を投じる存在になるのでしょうか。それとも一過性のトレンドで終わってしまうのでしょうか。実際に試してみた体験をもとに、マカッサルにおける健康ジュース市場の可能性を探ってみたいと思います。

Re.juveとの出会い 砂糖ゼロの衝撃

洗練された店舗デザインが語るもの

モールを散策していたとき、偶然Re.juveのショーケースに目を奪われました。まず印象的だったのは、洗練された店舗デザインです。木目調の温かみのある内装に、ブランドカラーの紫が映える照明。まるでバリやジャカルタの高級カフェにいるような雰囲気でした。

冷蔵ケースには色とりどりのジュースが並んでいます。赤、緑、黄色、オレンジ――それぞれが使用されているフルーツや野菜を物語っているようです。価格を見ると、250mlで38,000ルピアから65,000ルピアと、一般的なジュース(約10,000〜20,000ルピア)の2〜3倍の価格帯でした。

「コールドプレス製法」という差別化

店頭のメニューには、Re.juveの特徴が明確に記されています:

・100%果物と野菜のみ使用

・砂糖無添加(Tanpa Gula Tambahan)

・保存料不使用(Tanpa Pengawet)

・1本あたり約600gの果物と野菜を使用

・コールドプレス製法(Cold-Pressed)

コールドプレス製法とは、果物や野菜をゆっくりと圧力で押し出して搾汁する方法です。熱の発生が抑えられるため、熱に弱いビタミンや酵素といった栄養素が壊れにくいとされています。この製法は日本でも健康志向のジュースバーで定着しつつありますが、マカッサルのような地方都市ではまだ珍しい存在です。

実際に飲んでみた

私は「u.Glow」という商品を選びました。パイナップル、ニンジン、オレンジをブレンドした黄金色のジュースで、250mlで45,000ルピア(約430円)でした。一口飲んでみると――予想以上に美味しい。砂糖が入っていないにも関わらず、パイナップルとオレンジの自然な甘みがしっかりと感じられ、ニンジンが全体の味に深みを加えていました。後味もスッキリとしており、インドネシアの一般的な甘いジュースにありがちな重さはありませんでした。

さらに驚いたのは、たった250mlでも満足感が高く、空腹感が和らいだことです。これは、おそらく果肉の繊維質が適度に残るコールドプレス製法ならではの効果でしょう。

他にも、「Asian Green」(パイナップル、キュウリ、セロリ、ほうれん草)や「Beat Guava」(クリスタルグァバ、パイナップル、ビーツ)など、日本のジュースバーでも見かけるようなラインナップが揃っていました。

インドネシアのジュース文化 なぜこんなに甘いのか?

砂糖消費大国インドネシアの実態

インドネシアでは砂糖入り飲料(SSBs)の消費が非常に高いと言われています。地域レベルのデータでは、成人の多くが砂糖入り飲料を日常的に飲んでおり、その頻度は高いと報告されています。

糖尿病の問題も深刻です。インドネシアは世界で5番目に糖尿病患者が多い国であり、成人の患者数は2,000万人を超えています。

「甘い=美味しい」という根深い価値観

インドネシア人が甘い飲み物を好む背景には、歴史的・文化的な価値観も関係しています。かつて砂糖は貴重品であり、裕福さの象徴でした。植民地時代にオランダ人がサトウキビ栽培を始めたことで砂糖が次第に普及しましたが、それでも砂糖を惜しみなく使えること自体がステータスでもありました。

この「砂糖=豊かさ」という価値観は、もてなしや日常の飲み物の味付けにも受け継がれてきました。また、高温多湿の気候で肉体労働をする人々にとって、甘い飲み物は即座にエネルギーを補給できる実用的な飲料でもありました。

マカッサルという市場 健康志向は芽生えているのか?

地方都市マカッサルの特殊性

マカッサルは東インドネシア・スラウェシ島の中心都市で、人口約150万人程度とされています(直近公的統計より推定)。ジャカルタやスラバヤと比べると、健康志向の浸透度はまだ限定的です。街を歩けば、甘い飲み物を売る屋台が至る所にあり、「Es Buah」や「Es Campur」など伝統的な甘い飲み物が人々に愛されています。

また、「Pisang Epe」(焼きバナナにパームシュガーシロップ)や「Pallu Butung」(魚のスープに砂糖を加える習慣)といった甘味文化が根強く残っています。

変化の兆し 中間層の拡大とフィットネスブーム

一方で、健康志向の高まりも見られます。経済成長により中間層が拡大し、健康や美容への関心を持つ人々が増えています。市内にはフィットネスジムが増え、若い世代を中心に通う人が多くなっています。また、インスタグラムなどSNSでワークアウトやヘルシーな食事を投稿するローカルインフルエンサーも増えています。

さらに、「オーガニック」や「ナチュラル」といったキーワードへの関心も高まりつつあり、モール内にオーガニック食品コーナーが設置されるなどの動きも見られます。

Re.juveのターゲット層

こうした状況を踏まえると、Re.juveのターゲット層は次のように整理できます:

・健康意識の高い中間層の若年層(約25〜40歳)

・フィットネスやダイエットに取り組む人々

・子どもの健康を気遣う親世代

・糖尿病や生活習慣病のリスクを意識する人々

価格設定(38,000〜65,000ルピア)は、一般的なインドネシア人にとっては決して安くありません。マカッサルの最低賃金(月額約3,500,000ルピア)を考えると、1本45,000ルピアのジュースは日常的に購入できる価格帯ではないでしょう。

これは、Re.juveが大衆向けではなく、プレミアム市場を狙っていることを意味しています。富裕層の多いジャカルタやバリでは支持を得やすいものの、マカッサルのような地方都市で定着するかどうかは未知数です。

成功の鍵と課題 健康ジュース市場の未来

成功するための条件

継続的な消費者教育

 砂糖ゼロのメリットやコールドプレス製法の価値を伝える必要があります。Re.juveは目的別ジュースセット(免疫力向上、回復サポートなど)を提供しており、消費者の目的購買を促す工夫が見られます。

アクセシビリティの向上

 現在、マカッサルではRatu Indah Mallの1店のみのようですが、他モールへの出店や「Go-Food」「Grab Food」などの配達サービスでの展開が必須でしょう。また、ジムやヨガスタジオとの提携も効果的です。

価格戦略の見直し

 250mlの価格は高めですが、小サイズを提供することで「まず試してみる」というハードルを下げることができます。定期購入割引や会員制度もリピート促進に有効です。

立ちはだかる3つの壁

根深い味覚の壁

 「甘くないジュースは美味しくない」という固定観念は依然として強いです。試飲プロモーションや自然な甘みの強いフルーツを使った商品導入などの工夫が必要です。

保存期間の短さ

 コールドプレスジュースは保存料不使用のため日持ちがしません。冷蔵で数日程度の賞味期限と考えられ、在庫管理や食品ロスのリスクが高いです。消費者には「鮮度の良さ=栄養価が高い」というメッセージを伝える必要があります。

競合の出現

 健康ジュース市場が成功すると、類似ブランドが出現する可能性が高いです。単に「砂糖ゼロ」でなく、独自の価値(高品質素材、ブランドイメージ、レシピ)を確立することが重要になります。

日本の事例から学ぶ

日本では、2010年代前半からコールドプレスジュース専門店が徐々に増えました。東京の「SUNSHINE JUICE」や「Sky High Juice」などが多くの支持を集めています。当初は「高すぎる」「すぐに傷む」といった批判もありましたが、継続的な消費者教育、インフルエンサーの発信、確かな品質によって支持を広げてきました。

インドネシア、特にマカッサルでも同様のプロセスが必要でしょう。ただし、購買力や市場規模を考えると、日本よりも時間がかかる可能性が高いと考えています。

まとめ 健康ジュース革命はマカッサルに根付くか?

Re.juveとの出会いは、私にとって驚きと希望が入り混じった体験でした。長年インドネシアの甘すぎるジュースに辟易していた身としては、「こういう選択肢が出てきたか」という嬉しさがありました。

実際の味や品質は申し分なく、日本のコールドプレス専門店と比べても遜色ないレベルだと感じました。価格は確かに高いですが、使用している原材料の量と製法を考えれば、妥当であるとも言えます。

しかし冷静に市場を見ると、マカッサルでの定着は容易ではありません。価格、味覚、利便性――乗り越えるべきハードルは多いです。

ただし、逆に言えばチャンスもあります。インドネシアの糖尿病問題は深刻であり、健康志向の層は確実に拡大しています。フィットネス文化も根付き始めています。

Re.juveのような健康ジュースが成功するかどうかは、単に一企業の問題ではなく、インドネシア社会が砂糖依存から脱却し、より健康的な食文化へとシフトできるかどうかの試金石でもあると感じています。

私自身は、今後もRe.juveを応援し、時々購入したいと思っています。日常的に飲むには高いですが、週末のご褒美や、体調を整えたい時の選択肢として十分に価値があると感じています。

マカッサルの健康ジュース市場の未来はまだ霧の中ですが、Re.juveという一筋の光は確かに差し込み始めています。この光が強まるか、それとも消えてしまうか――それは消費者である私たち一人ひとりの選択にかかっているのかもしれません。

 

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