満席の列車と、静かな誇り ルアンパバーンからビエンチャンへ、ラオス鉄道と日本のバス
ルアンパバーン駅を出発するラオス鉄道は、16両編成が一気に満席になるほどの人を乗せ、定刻通りに走り出しました。
路線の多くはトンネル区間ですが、その合間に現れる山や川の風景が、この国の奥行きを静かに伝えてくれます。
ビエンチャン到着後、駅前で待っていたのは日本の援助による年季の入ったバスでした。
速さと静けさ。異なる役割を持つ二つの交通が並ぶ光景を、ここに記しておきたいと思います。
次の目的地はビエンチャン
ルアンパバーンからビエンチャンまでは、距離にしておよそ300kmです。
所要時間は約2時間ほどになります。
ただ、この移動は単なる「都市間移動」ではなく、
いまのラオスという国を、そのまま体感する時間になる予感がしていました。
ルアンパバーン駅に広がる、想像を超えた人の波

駅に着いた瞬間、まず圧倒されました。
人の数が、想像していたスケールを軽く超えていたのです。

ルアンパバーン発の列車は本数が限られており、
この時間帯のビエンチャン行きは実質一本に近い状況でした。
しかも16両編成です。
構内はすでに人で埋まり、出発を待つ空気が濃く漂っていました。
バックパックを背負った旅行者、家族連れ、地元の人々、ビジネスマン。
年齢も服装も目的も異なる人たちが、同じ方向へ集まってきます。
「今日は特別な日なのだろうか」と一瞬思いましたが、
どうやらこれが日常のようでした。
この列車が、ラオスにおいてどれほど重要な交通手段なのか。
説明されなくても理解できる光景でした。
座席指定制でも油断できない現実
ラオス鉄道は全席指定制です。
それでもチケットの入手は簡単ではなく、満席の日も少なくありません。
今回は幸運にも、窓側の席を確保できていました。
それでも、並ぶ人の数を見た瞬間、
「本当に全員、乗れるのだろうか」
という素朴な疑問が浮かびました。

改札が始まり、QRコードを読み取ってホームへ進みます。
16両編成の車内に、あれだけの人が一斉に吸い込まれていきました。
慌ただしさはありますが、混乱はありません。

押し合うことも、怒鳴る声も聞こえません。
人々はただ淡々と、自分の席へ向かっていきます。
この秩序は、ルールというより「慣れ」なのだと感じました。
列車という新しいインフラが、すでに生活の一部になっていることが伝わってきます。

定刻発車。巨大な列車が、山へ吸い込まれていく
発車時刻になると、驚くほどあっさり列車は動き出しました。
遅れもなく、過剰なアナウンスもありません。
巨大な編成が、静かに、しかし確かな力で走り始めます。

ホームに残る人影が、ゆっくりと遠ざかっていきました。
ルアンパバーンの街が視界から消えるころ、
「もう戻ってくることはないかもしれない」
そんな感覚がふとよぎります。
それでも、不思議と寂しさはありませんでした。
この街は、引き止めないのです。
また来たければ、来ればいい。
そう言われているような気がしました。
トンネル、トンネル、そして一瞬の風景
列車は、想像以上にトンネルが多く続きます。
暗くなっては、また暗くなる。

けれど、その合間に突然現れる景色が強烈でした。

川、畑、山、村。
ほんの数秒、窓の外を流れる風景が、
ラオスの地形と暮らしを一気に語ってくれます。

ビエンチャン駅前で待っていたのは、日本のバス
列車は、ぴたりと定刻でビエンチャンに到着しました。

拍子抜けするほど正確です。
人々は当たり前のように立ち上がり、荷物を取り、ホームへと流れていきました。
駅を出たところで、思わず足が止まりました。
目に入ったのは、年季の入った緑色のバスです。

側面には、はっきりとした日の丸。
そして「From the People of Japan」の文字がありました。

正直、胸が少し熱くなりました。
最新鋭の鉄道で運ばれてきた、その直後に、
この決して新しくはない日本のバスが待っている。
その対比が、あまりにも鮮明だったのです。
古いけれど、現役。誇らしげな日本の援助
このバスは新しくありません。

塗装には年季があり、装備も最新ではありません。
それでも、現役で走っています。
人を運び、駅と街をつないでいます。
「援助」という言葉は、ときに上から目線に聞こえることがあります。
けれど、このバスからは、そうした空気を感じませんでした。
ただ、必要な場所で、必要な役割を、静かに果たしている。
その姿勢が伝わってきます。
中国主導で建設・運営されているラオス鉄道。
一方で、駅から市内へ人を運ぶ公共交通は、日本の支援によって長く支えられてきました。
ラオスという国の中で、
複数の国の関わりが、競合ではなく役割分担として存在している。
そのことが、この駅前の風景から自然に伝わってきました。
ビエンチャン・バスセンターへ
バスは、ゆっくりと市内へ向かいます。
道は混みすぎず、街は落ち着いています。
高層ビルは少なく、空が広い。
ここが首都だということを、一瞬忘れそうになりました。
やがて到着したビエンチャンのバスセンター。

派手さはありませんが、ちゃんと「戻ってきた」と感じられる場所でした。
速さと、静けさのあいだで
ルアンパバーンからビエンチャンまでの移動は、
ただの移動ではありませんでした。
満席の列車、圧倒的な輸送力、定刻運行。
そして、駅前で待つ一本の日本のバス。

ラオスは、確実に速くなっています。
けれど、急ぎすぎてはいません。
そのバランスが、今回の旅の最後に、はっきりと見えた気がします。
何もいらない朝から始まり、
巨大な列車に乗り、
最後は静かなバスで街へ戻る。
この流れそのものが、
いまのラオスの「呼吸」なのかもしれません。
次にこの国を訪れるとき、
この列車はさらに増え、
このバスは姿を消しているかもしれません。
だからこそ、
今日見た風景は、きちんと心にしまっておこうと思います。
静かで、強くて、誇らしい移動でした。