お酒じゃなくてコーヒーで語る!ジェパラで体験した路上カフェの夜
インドネシア・ジェパラの夜は、おしゃれなバーでも賑やかなパブでもなく、路上に並べられた椅子とコーヒーで始まります。若者たちはお酒を飲むわけでもなく、甘いコーヒーを片手に語り合い、笑い合う。そんな“おしゃべりのカフェ文化”が、静かに、そして深くこの町に根づいています。旅人でも自然にその輪に入れる、ジェパラの夜のやさしさとぬくもりに触れた一夜をご紹介します。
なぜ“路上カフェ文化”が根づいたのか?
中部ジャワの港町・ジェパラ。日中は木工職人たちが技を競う「木の町」として知られていますが、日が沈むと町の雰囲気は一変します。

通りには椅子やゴザが並べられ、若者たちが集まって甘いコーヒーを片手に語り合う──これが、ジェパラの夜にごく自然に広がる“路上カフェ文化”です。

このユニークで魅力的な文化が生まれた背景には、いくつかの理由があります。
第一に、インドネシアの温暖な気候と暮らし方。1年を通じて気温が高く、夜も過ごしやすいため、自然と屋外で時間を過ごす文化が育まれてきました。とくに夕方以降の涼しい時間帯は、仕事終わりのひと息にぴったりです。
第二に、家の中より“外”に居場所を求める文化です。ジャワ島では大家族での同居が一般的で、家の中に自分だけの空間を持ちにくい傾向があります。そのため、通りに出て友人と語り合う“外の時間”が、若者たちにとってはとても大切な時間なのです。
そしてもう一つ重要なのが、イスラム文化に根ざした“飲まない夜の楽しみ方”の存在です。インドネシアは世界最大のムスリム人口を誇る国。ジェパラも例外ではなく、多くの人がアルコールを口にしません。だからこそ、甘いコーヒーやお茶を囲んで語らうという“飲まない夜”の楽しみ方が、自然と文化として根づいているのです。
コーヒーと会話でつながる夜

夜8時を過ぎると、町のあちこちに即席のカフェ空間が現れます。照明は裸電球や携帯のライト程度で、決して明るくはありませんが、その分、人と人との距離がぐっと縮まるような温もりがあります。
この夜、私もふと立ち寄った屋台の前に座ってみました。すると「どうぞ、こちらへ」と、若者たちが自然に声をかけてくれました。ジャワの人々の懐の深さには、いつも感心させられます。
甘いコーヒーを飲みながら、「ジェパラに何しに来たの?」「日本人?」と、たわいのない会話がゆっくりと流れ、夜は静かに、そしてにぎやかに更けていきました。

路上だからこその“自由さ”と“温もり”
このような路上カフェの魅力は、何といってもその自由さ。予約もドレスコードも必要ありません。誰でも気軽に座れて、誰かと自然に会話が始まる。その形式にとらわれないスタイルこそが、ジェパラの夜にぴったりなのです。
そしてもう一つ感じたのは、“何もしない時間”の豊かさ。隣に座った人と、ただコーヒーを飲みながらその日の出来事を話す──それだけの時間が、なんとも贅沢に感じられました。若者たちの姿に、どこか懐かしさと羨ましさを覚えたのも、きっとそんな“ゆるやかな時間”が流れていたからでしょう。
旅人も混ざれる優しい空間
その晩、私は彼らと同じように椅子に腰かけて、甘いコーヒーをすするだけで、不思議と“この町の一員になれた”ような気がしました。通りすがりの外国人でも、すっと輪に入れるやさしさ。気取らず、媚びず、でも確かに誰かとつながっている──そんな感覚をくれるのが、ジェパラの路上カフェ文化なのです。

おわりに
ジェパラを訪れる目的は、家具工房の見学やビーチ散策などさまざまあるでしょう。でも、もし夜に時間があるなら、ぜひこの“路上カフェ”文化に触れてみてください。そこには、観光ガイドには載っていない、もう一つのジェパラの顔が広がっています。
お酒に頼らず、派手な照明もなく、それでも心があたたまり、ほどけていく──そんな夜を忘れられません。