「もうこの年だから。」そう思って、何かを諦めたことはありませんか。私も50歳でインドネシアへ来る時、「もっと早ければ」と何度も思いました。でも55歳になった今、ようやく気付いたのです。「もう遅い」と思った日こそ、残りの人生で一番若い日だったことに。今日という一日を少し前向きに見つめ直せる、そんな小さな気づきを綴りました。
若い頃、私は何度もこう思っていました。
「もう遅い。」
30歳の時は、30歳だから。40歳の時は、40歳だから。50歳で会社を辞める時も、やっぱり思いました。「もう50歳だ。」「もう挑戦する年齢じゃない。」
でも55歳になった今、はっきりと言えます。
あの頃の50歳は、驚くほど若かった。そして10年後の私から見れば、今日の55歳も、きっとまだ若い。
だから今は、こう思っています。人生は、「今」が一番若い。
インドネシアへ来てから、私は何度も心の中でつぶやいていました。「もっと早く来ればよかった。」
30歳で来ていれば、もっと体力があった。40歳で来ていれば、もっと時間があった。50歳は遅すぎたのではないか。
工場が思うように動かない。許認可が進まない。売上が伸びない。問題が起きるたびに、「もっと早く来ていれば」という言葉が頭に浮かびました。
今思えば、その言葉は前へ進むための言葉ではありませんでした。今の自分の可能性に、そっと蓋をする言葉だったのです。
ある日、ふと考えました。「本当にそうだろうか。」
もし30歳でインドネシアへ来ていたら。水産業の経験はまだ浅かった。交渉力も、人を見る目も、今ほどではありませんでした。失敗を乗り越えてきた経験もありません。40歳だったとしても、まだ足りなかったと思います。
逆に50歳だったから持って来られたものがあります。30年間積み重ねた仕事。営業で培った交渉力。品質を見る目。人を信じること。失敗から立ち上がる力。それら全部を持って、私はインドネシアへ来ることができました。
だから今は思います。50歳だったから、ちょうどよかった。遅れたのではありません。私にとって、あれが一番いいタイミングだったのです。
人生には、それぞれの季節があります。
春に咲く花があります。夏に咲く花があります。何年も土の中で力を蓄え、ようやく花を咲かせる木もあります。
どれが早いわけでもありません。どれが遅いわけでもありません。咲く季節が違うだけです。
私にとっては、それが50歳だった。ただ、それだけのことでした。
人が「もう遅い」と思う時、たいてい見ているのは過去です。「あの時やっていれば。」「あの頃なら。」「あの年齢に戻れたら。」
でも未来は違います。10年後の自分は、きっとこう思います。「あの時始めておけばよかった。」
40歳の人が「もう遅い」と思っている今日を、50歳の自分は「まだ若かった」と思います。50歳の人が「もう遅い」と思っている今日を、60歳の自分は「十分若かった」と思います。
つまり、「もう遅い」と思った日は、実は一番若い日だったのです。
10年後に後悔しない方法は、一つしかありません。今日、始めることです。
いつの間にか、「もっと早く来ればよかった」という言葉は消えていました。代わりに生まれた言葉があります。「今だから、よかった。」
50歳だったから、この会社ができました。50歳だったから、このスタッフに出会えました。50歳だったから、この景色を見ることができました。
もし30歳だったら。もし40歳だったら。今の私は、きっとここにはいません。
人生は、早く始めることが大切なのではありません。自分のタイミングで、一歩踏み出すことが大切なのだと思います。
第1話で、私は「幸せは、探すものではなかった」と書きました。今回は、その続きの話です。
幸せは、遠くにあるものではありませんでした。そして、人生を変えるタイミングも、遠い未来ではありませんでした。今日でした。
資格を取りたいなら、今日。英語を始めたいなら、今日。転職したいなら、今日。誰かに「ありがとう」を伝えたいなら、今日。
大きな一歩でなくてもいい。昨日より少しだけ前へ進む。その小さな一歩が、10年後の自分にとって、人生を変えた一日になるかもしれません。
55歳になって、ようやく分かったことがあります。
人生には、早いも遅いもありませんでした。あるのは、始めた日だけでした。
だから私は、明日ではなく、今日を選びたいと思います。
10年後の私が、「あの日、始めてよかった」と思えるように。
次回は、いよいよ最終回です。
「人生は、いつからでも変えられる」
50歳で会社を辞め、インドネシアへ渡った私が、この連載で最後に伝えたいことを書きます。
第1話から読んでくださった皆さんへ。この10話を通して、一番届けたかったメッセージを、最終回に込めたいと思います。
この連載では、55歳になった今だからこそ気付けた、小さな学びや人生の変化を綴っています。