ジャカルタのパサールバルで、また食べに行きたいと思える一杯に出会いました。店の名前は「Bakmi Aboen(バクミ・アブン)」。細い路地の奥にある、地元で長く愛されてきた店です。
バクミは、インドネシアで親しまれている中華系の麺料理。名前は福建語系の言葉に由来し、もともとは「肉入りの麺」という意味です。鶏肉を使う店もありますが、Bakmi Aboenは豚肉のバクミで知られています。
パサールバルは、ジャカルタ中心部にある昔からの商店街です。歩いていて特に目についたのが、布を扱う店の多さでした。通り沿いに布地の店が何軒も並んでいます。そんな商店街のにぎわいから一本脇へ入ったところに、Bakmi Aboenへ続く細い路地がありました。
大通りから一本入ると、道は急に細くなります。両側には古い建物の壁が迫り、頭の上には電線が何本も垂れ下がっています。シャッターの閉まった店、積み上げられた竹かご、軒先に腰かけている人。観光客向けの通りとは雰囲気が違います。
本当にこの先に人気店があるのか、正直、少し不安になりました。
それでも奥へ進むと、正面に赤い屋根飾りと「BAKMI ABOEN」の看板が見えてきます。くすんだ色の路地の突き当たりに、そこだけ鮮やかな赤。この瞬間が、なんともいいのです。
入口のすぐ横が厨房で、ステンレスの台の上には「AWAS PANAS(熱いので注意)」の貼り紙がありました。スタッフが手際よく麺をゆでています。
中に入って、驚きました。
天井が高く、冷房がしっかり効いていて、長いテーブルと丸いスツールがずらりと並んでいます。壁の色も照明も落ち着いていて、とても清潔です。さっきまで歩いてきた路地とは、まるで別の場所のようでした。私が訪れたときは客もまばらで、ゆっくり座ることができました。
現地の紹介記事によると、創業は1962年。近年改装して、今の店構えになったそうです。60年以上続く老舗が、場所はそのままに店だけを新しくした。路地と店内の落差には、そんな歴史が詰まっているのだと思います。
注文したのは豚肉のバクミです。
麺の上には、揚げた豚肉、赤く染めたチャーシュー、きのこ、そして青菜。見た目にも賑やかで、具だけで一品料理になりそうな量です。横には、ネギを散らした澄んだスープが別の器で添えられています。飲み物は冷たいお茶にしました。
なお、この店は豚肉を使う店です。イスラム教徒の方と一緒に行くときは気をつけてください。
ところが、食べ進めるうちに、いちばん印象に残ったのは具ではなく麺でした。
器の底から麺を持ち上げ、たれとよく混ぜて口に運ぶ。細くて、なめらかで、柔らかいのにだらりとしていない。噛むと、ぷつっと気持ちよく切れます。
この食感、どこかで知っている。そう思って、すぐに浮かんだのが日本の昔ながらの中華そばでした。インドネシアで暮らしていると、ふとあの味が恋しくなることがあります。まさかパサールバルの裏路地で、それを思い出すとは思いませんでした。
味付けは強すぎず、油っぽさもほどほど。途中で澄んだスープを一口飲むと、口の中がすっと落ち着いて、また麺に戻りたくなります。
後で調べると、麺は毎日店で作っているそうです。手打ちなのか、製麺機を使っているのかまでは分かりません。それでも、具だくさんの一杯で麺そのものが強く記憶に残ったことには、納得がいきました。
口コミには、子どもの頃から通っているという人や、麺の昔ながらの弾力を好む人もいました。私には、日本の昔ながらの中華そばを思わせる細麺です。この店を再訪したい理由は、何よりその麺にあります。
一方で、昼の混む時間は待つこともあるようです。落ち着いて食べたいなら、ピークを少し外すのがよさそうです。
路地に入るときは少し勇気がいりますが、その先には広くて涼しい店内と、細麺のうまいバクミが待っています。
ジャカルタに来たら、また寄るつもりです。
店名:Bakmi Aboen(パサールバル)
場所:パサールバルの路地の奥「地図はこちら」