インドネシア国鉄が、日本の中古電車23編成の輸入計画を取りやめました。国会の了承から約6週間での方針転換です。国産INKA製の新車は遅れ、車両不足は続きそうです。噂になった209系の行方と、静かだった日本側の動きを整理しました。
日本の中古電車が、またジャカルタに来るかもしれない。この話は、これまでNOTEで2回書いてきました。今回はその続きです。残念ながら、今回も来ないことになりました。
11月5日、インドネシア国鉄(KAI)のボビー社長が、日本からの中古電車の輸入計画を取りやめると発表しました。「国民には新しい車両を」と述べ、国内産業を優先する考えを示しています。
9月23日には、国会の委員会が中古車の輸入を了承していました。その場でボビー社長自身が、中古車を「新車がそろうまでのつなぎ」として提案していたのです。そこから約6週間で、話は元に戻りました。
インドネシアで商売をしていると、方針が途中で変わることにはある程度慣れてきます。それでも今回は早いなと思いました。
実は、日本の中古電車の輸入が見送られたのは今回が初めてではありません。2023年にも同じような計画がありましたが、国営車両メーカーINKAの製品を優先する方針などから見送られました。
中古車をやめる代わりに、KAIは新車23編成を2〜3年かけて調達するとしています。そのうち8編成は、すぐにでも必要だそうです。
あわせて、調達はINKAを中心に進め、海外メーカーが参加する場合も、インドネシア国内の産業と協力することが条件だと説明しています。
ただ、INKAの新車はすでに予定より遅れています。発注済みの16編成のうち、営業運転に入っているのは7編成で、まだ半分にも届いていません。8編成目は11月11日に最終試験を受け、12月1日の営業運転開始を目指しています。9月には、走り始めた7編成をいったん止めて一斉点検する出来事もありました。
ボビー社長は9月の国会審議で、INKAはこの発注分を年8編成造る見込みだったのに、実際には年2〜3編成にとどまっていると説明しています。急いで8編成が必要なのに、この状況では、車両不足の解消にはまだ時間がかかりそうです。中古車というつなぎがなくなった以上、ジャカルタ近郊の通勤電車は、しばらく今の混雑が続きそうです。
INKAが間に合わなければ、中国製の新車を入れるのではないか。私も最初はそう受け取っていました。中国CRRC製の新車は、すでにジャカルタで走っています。
ただ、今回発表されたのは、国内産業と協力するなら海外メーカーが加わる余地もある、というところまででした。中国のメーカーを名指ししたわけでも、追加発注を決めたわけでもありません。
日本の鉄道ファンの間で話題になったのが、房総地区を走っているJR東日本の209系です。9月ごろ、インドネシアに渡るのではないかという話が出ていました。
9月26日の時点で、KAI Commuterは「日本の事業者と、車両があるかどうか、状態はどうかを確認している段階」と説明していました。報道でも、209系を含め、導入する車種は決まっていないとされています。
JR東日本が9月10日に出した資料も確認しました。房総地区の209系をE233系とE131系に置き換える計画は載っていますが、インドネシアへの譲渡については何も書かれていません。
中古車の輸入計画そのものは、実際に検討されていました。ただ、209系の譲渡が正式に決まっていたわけではありません。どの車両が来るのか公表されないまま、輸入計画が取りやめになりました。
今回、インドネシアの報道はたくさん出ましたが、日本のニュースはほとんど見かけませんでした。
まったくなかったわけではありません。東洋経済が10月3日に詳しく取り上げています。ただ、その記事も「中古車両の輸入再開の検討を開始した」という書き方で、譲渡が決まったとは書いていません。
インドネシア側では輸入再開を期待させる見出しが続きましたが、車種も正式には決まっていませんでした。JR東日本からも、209系を譲渡するという発表は見当たりません。報道を追っていた私には、日本側のほうが冷静だったように見えます。もっとも、水面下でどこまで話が進んでいたのかは分かりません。
インドネシアが国内の産業を育てたいという考えは、よく分かります。私もこの国で会社を作り、ものを作る側にいるので、現地で造れるものを増やしたいという思いには共感します。
一方で、毎朝混んだ電車で通勤している人にとって、2〜3年はかなり長い時間です。前に書いたハラール義務化の延期のときもそうでしたが、インドネシアの政策は、決まったと思っても最後まで分かりません。今回も、発表があったからといってこれで終わりとは限らないと思っています。
次にこの話を書くのは、INKAの8編成目が12月に走り出したときかもしれません。予定どおり走るかどうか、マカッサルから見守りたいと思います。
※車両の導入状況や予定は、2026年11月8日時点の報道に基づきます。
参考