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「カスボンできますか?」インドネシアの「前借り」文化を調べてみた

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インドネシアで会社を経営していると、「カスボンできますか?」という相談は、それほど珍しいものではありません。最初の頃は、私も「カスボンって何だ?」と思いました。

この国で働いたことがある方なら、一度は「カスボン(Kasbon)」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

給料日前に給与の一部を前借りする、インドネシアでは比較的よく見られる慣習です。

面白いのは、この言葉の響きです。

「カスボン」。

日本人の耳で聞くと、「貸す本(かすほん)」のようにも聞こえます。

もちろん日本語とはまったく関係ありません。しかし調べてみると、この言葉にはインドネシアの歴史と働き方が意外なほど凝縮されていました。

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「カスボン」はオランダ語から来た言葉

「Kasbon」は、オランダ語の kasbon に由来する言葉とされています。

オランダ語の kasbon は、金銭や債務に関係する証書・伝票を指す金融用語として使われてきた言葉です。

一方、インドネシアでは意味が変化し、現在の kasbon は一般的に「給与の前借り」「会社などから受ける前払い金」という意味で使われています。

つまり、オランダ語由来の金融・会計に関係する言葉がインドネシアに定着し、この国独自の意味を持つようになったと考えるのがよさそうです。

インドネシア語には、こうしたオランダ語由来の言葉が今も数多く残っています。そして「kasbon」もまた、その一つです。

オランダ語に由来する言葉が、時代を超えて、現代のインドネシア企業の日常会話にまで残っている。そう考えると、一見地味な「カスボン」という言葉にも、インドネシアの歴史が刻まれているように感じます。

「借りる」も「貸す」も、同じ取引の裏表

語源の話はさておき、カスボンの仕組みはシンプルです。従業員が給料日前に、給与の一部を先に受け取ります。

面白いのは、この一つの取引が、立場によってまったく違う顔を見せることです。

従業員から見れば、カスボンは「前借り」です。家族の急病、子どもの学費、親戚の冠婚葬祭、レバラン(断食明け大祭)前の出費……。インドネシアでは家族や親族とのつながりが強く、自分一人の生活費だけでなく、親や兄弟、親戚を助けるために急なお金が必要になることも珍しくありません。

一方、給与を渡す側、つまり経営者から見ると、カスボンは会社のお金を通常の給与支給日より前に従業員へ渡すことになります。

私自身、インドネシアで会社を経営する中で、「ボス、少しカスボンできますか?」と従業員から相談を受けることがあります。

従業員から見れば「借りる」。会社側から見れば「先に渡す」。同じ一つのお金のやり取りなのに、どちら側から見るかで印象が変わります。

「カスボン」という響きが日本語の「貸す本」を連想させるのは単なる偶然ですが、経営者としてこの言葉を聞いていると、なんとも不思議な語感だと思ってしまいます。

いくらまでカスボンできるのか

では、従業員はいくらでもカスボンできるのでしょうか。当然ながら、そういうわけではありません。

実際の運用は会社によって異なり、「月給の何%まで」「勤続何か月以上」「月に何回まで」といった社内ルールを設けている企業もあります。

重要なのは、カスボンについてインドネシア全体で統一的な上限が決められているわけではないということです。企業側としては、金額、対象者、精算方法などについて社内ルールを明確にしておく必要があります。

また、昔ながらのカスボンでは利息を取らず、次回以降の給与から精算するような運用も一般的です。そのため単なる金融取引というより、会社と従業員の信頼関係の中で成り立っている側面があります。

「給料日前にお金が必要」が、フィンテックになった

ここからが面白いところです。

昔から存在する「給料日前にお金が必要」というニーズが、近年、フィンテックによって新しいサービスへと姿を変えています。それが、Earned Wage Access(EWA=既得賃金アクセス)です。

インドネシアでその代表的な企業の一つが、2020年に設立されたGajiGesaです。

EWAでは、従業員が「すでに働いて得た給与」の一部を、通常の給料日を待たずにアプリなどから受け取ることができます。ここが従来型のカスボンとの重要な違いです。

GajiGesaはEWAについて、「借金」ではなく、すでに働いた日数に応じて発生している自分の給与へのアクセスだと位置付けています。つまり、

Kasbon=給与の前借り

EWA=すでに稼いだ給与を給料日前に受け取る

という考え方です。従業員からすれば「給料日前に現金を受け取れる」という点では似ていますが、金融の仕組みとしては区別されています。

GajiGesaをKredivoが100%買収

そして、この市場が単なるニッチなサービスではなくなっていることを象徴する出来事がありました。

2025年2月、インドネシアの大手デジタル金融グループKredivo GroupがGajiGesaの100%買収を発表しました。買収発表時点でGajiGesaは、35万人を超える従業員ユーザーを抱え、400社を超える企業と提携していると発表されています。現在もGajiGesaはKredivo Group傘下でサービスを展開しています。

昔なら、「ボス、カスボンできますか?」と会社の経理担当者や経営者に直接頼んでいたものが、今ではスマートフォンから自分がすでに働いた分の給与にアクセスする。インドネシアの働き方も、ずいぶん変わってきました。

背景にある「給料日まで待てない」という現実

EWAが広がる背景には、単にスマートフォンが普及したというだけではなく、インドネシアの労働者が抱える金融事情があります。

急な医療費、家族への仕送り、教育費などが必要になったとき、すべての人が銀行から簡単に融資を受けられるわけではありません。そこで問題になるのが、高金利の借入や、違法なオンライン融資(Pinjol ilegal)です。

GajiGesa自身も、EWAによって従業員が高コストな借入に頼ることを減らすという考え方を打ち出しています。その意味では、EWAは単なる「デジタル版カスボン」ではありません。昔から存在していた「給料日前にお金が必要になる」という問題に、テクノロジーを使って別の答えを出そうとしているサービスだと言えるでしょう。

「貸す」側にもルールが必要

もちろん、従来型のカスボンには問題もあります。

会社側からすれば、複数の従業員から同時にカスボンを求められれば、キャッシュフローに影響します。また、従業員がカスボンを繰り返すようになると、

今月カスボンする → 次の給与で精算される → 手元に残る給与が少なくなる → また翌月カスボンする

という循環に入ってしまうこともあります。

私も会社を経営していると、単純に「困っているなら貸してあげればいい」とは言い切れない難しさを感じます。助けることと、依存させないこと。そのバランスを取るためにも、上限額や利用条件、給与からの精算方法などを会社として明確にしておくことが重要です。

一つの言葉から見えてくるインドネシア

オランダ語に由来する「kasbon」という言葉。それがインドネシアに根付き、「給与の前借り」という意味で日常的に使われるようになりました。そして今、その背景にある「給料日前にお金が必要」というニーズは、EWAという新しいフィンテック市場へとつながっています。

オランダ語にルーツを持つ一つの言葉と、スマートフォンの中の最新フィンテック。一見するとまったく違う二つの世界ですが、その根底にあるのは「必要なときにお金を使いたい」という、とても人間的な事情なのかもしれません。

日本から来た経営者としてインドネシアで事業をしていると、制度や法律だけを知っていても分からないことがたくさんあります。

「カスボンできますか?」

そんな何気ない一言の背景にも、家族との関係、生活事情、会社との信頼関係、そしてこの国の歴史までが重なっています。カスボンという一つの言葉を掘り下げてみると、インドネシアのビジネス文化が思いのほか立体的に見えてくるのです。

記事の最後
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kenji kuzunuki

葛貫ケンジ@インドネシアの海で闘う社長🇮🇩 Kenndo Fisheries 代表🏢 インドネシア全国の魅力を発信🎥 タコなどの水産会社を経営中25年間サラリーマン人生から、インドネシアで起業してインドネシアライフを満喫しています。 インドネシア情報だけでなく、営業部門に長年いましたので、営業についてや、今プログラミングを勉強中ですので、皆さんのお役にたつ情報をお伝えします。