はじめに
海外で働きたい。
若い頃からずっとそう思っていた。
海外赴任。
海外駐在。
海外移住。
日本を飛び出して世界で働く。
そんな生き方に憧れていた。
だからインドネシアで事業を始めることが決まった時、私は本当に嬉しかった。
ようやく夢が叶った。
ようやく海外で働ける。
ようやく自分が思い描いていた人生が始まる。
そんな気持ちだった。
しかし、今振り返ると少し面白い。
なぜなら、本当に悩み始めたのは夢を叶えた後だったからだ。
夢を追いかけている時期は分かりやすい。
目標があるからだ。
海外で働きたい。
海外で生活したい。
海外で挑戦したい。
だから勉強もする。
準備もする。
努力もする。
毎日が目標へ向かう時間になる。
実際、私もそうだった。
海外事業に関わりたい。
インドネシアで仕事をしたい。
そのために様々な経験を積み重ねてきた。
そして2021年、ついにインドネシアへ移住した。
目標達成だった。
しかし、ここで一つの問題が起きた。
その後の目標を考えていなかったのだ。
これは意外と多くの人が経験していると思う。
海外赴任が決まる。
海外駐在が始まる。
海外移住が実現する。
その瞬間は本当に嬉しい。
しかし半年ほど経つと現実が始まる。
仕事にも慣れる。
生活にも慣れる。
言葉にも慣れる。
するとふと気づく。
「次は何を目指せばいいんだろう」
目標だった海外生活はすでに実現している。
毎日仕事はしている。
生活もできている。
大きな問題もない。
それなのに、どこか満たされない。
これは海外生活そのものの問題ではない。
目標を失ったことによる空白なのだと思う。
日本にいる時は、
海外生活は特別なものに見える。
毎日が刺激的。
毎日が新しい経験。
そんなイメージがある。
しかし実際は違う。
海外も日常になる。
朝起きる。
仕事へ行く。
会議をする。
帰宅する。
夕飯を食べる。
寝る。
やっていることは日本とそれほど変わらない。
違うのは場所だけだ。
最初は特別だった海外生活も、数年経つと普通の生活になる。
だからこそ、
「海外へ行けば幸せになれる」
という考え方は危険なのかもしれない。
幸せは場所ではなく、自分の中にあるからだ。
インドネシアへ来て気づいたことがある。
海外で働くことは難しくない。
本当に難しいのは、海外で生きることだ。
働くだけなら会社がサポートしてくれる。
しかし人生は仕事だけではない。
休日はどう過ごすのか。
どんな人と付き合うのか。
何に喜びを感じるのか。
どんな未来を描くのか。
そういった部分は誰も決めてくれない。
だから海外生活が長くなるほど、
仕事以外の目標
が大切になる。
これまで多くの海外駐在員と出会った。
その中で印象的だったことがある。
海外生活を楽しめる人と、楽しめない人の違いだ。
英語力ではなかった。
仕事の能力でもなかった。
会社の規模でもなかった。
違いは一つだった。
海外赴任の先に目標があるかどうか。
楽しそうな人は、
ゴルフを始めたり、
語学を学んだり、
現地の文化を学んだり、
新しい事業を考えたりしていた。
一方で、
「海外へ行くこと」
そのものがゴールだった人は、数年後に苦しむことが多かった。
私は最近、小さな目標の大切さを感じている。
大きな夢でなくてもいい。
新しい場所へ行く。
新しい人と会う。
新しい挑戦をする。
新しい知識を学ぶ。
そうした小さな目標が、毎日の生活に意味を与えてくれる。
人生は意外と長い。
だから一度夢を叶えた後も、新しい目標を作り続ける必要があるのだと思う。
今なら分かる。
昔の私は、
海外へ行くこと
が夢だった。
しかし本当に大切なのは、
海外で何をするか
だった。
海外はゴールではなかった。
舞台だったのだ。
日本でもいい。
インドネシアでもいい。
大切なのは場所ではなく、その場所でどんな人生を生きるかだ。
「海外で働きたい」
その夢は叶った。
でも、その後どうするのか。
実はそこからが本番だった。
海外生活は人生を変えてくれる。
しかし、それだけでは人生は完成しない。
海外へ行くことはスタートだ。
そしてスタートラインに立った後、自分が何を目指すのか。
その答えを探し続けることこそ、本当の海外生活なのかもしれない。
インドネシアへ来て5年。
今も私は、その答えを探し続けている。