マカッサルのタコは、11月からシーズンに入ります。
毎年この時期になると、今年はどれくらい獲れるか、値段はどうなるかと、少し落ち着かなくなります。シーズンが始まる前に、漁師さんたちが暮らす島を訪ねたいと思い、バランチャディ島(Pulau Barrang Caddi)へ行ってきました。
マカッサルの港から、船で30分ほどです。街を離れると、海の色がだんだん明るくなっていきます。やがて、浜に並んだ船と、その奥にある色とりどりの家が見えてきました。
島に着いて、まず目に入ったのは砂浜に引き上げられた小さな船です。
白、黄色、緑、赤。どの船も派手な色で塗られていて、名前や番号、模様が描かれています。船ごとに、持ち主の好みが出ているようでした。
浜の奥の作業小屋では、ちょうど新しい船をつくっていました。細い木で骨組みを組んでいるところです。
浜から一本入ると、細い路地が続いています。
小さな商店の軒先には、お菓子やコーヒーの小袋がたくさんぶら下がっていました。店のおじさんにカメラを向けると、少し照れたように笑ってくれました。
壁には大きなタコと、ピンク色のクラゲの絵が描かれていました。「MAKASSAR BERSIH(きれいなマカッサル)」の文字もあります。タコの島らしい壁画で、思わず足が止まりました。
道ばたで大きな籠を編んでいるおじいさんがいました。
家の塀を水色に塗り直している若い人もいました。
路地の柱には、マカッサル市の「sombere’ & smart city」という看板がありました。sombere’はマカッサル語で、人あたりがよく親切だという意味です。街なかでもよく見かける標語ですが、この島で見ると、なるほどと思いました。
歩いていると、歌声が聞こえてきました。のぞいてみると幼稚園です。
トタン屋根の教室で、黄色い体操服の子どもたちが、大きな画面に合わせて体を動かしていました。先生も一緒に両手を挙げて踊っています。子どもたちも先生も、元気いっぱいでした。
中学校の校庭では、インドネシアの国旗がはためいていました。年季の入った校舎の前で、子どもたちが元気に過ごしていました。
この島でいちばん心に残ったのは、人の表情です。
「Selamat pagi(おはようございます)」と声をかけると、ほとんどの人が笑顔で返してくれます。よそから来た人に対して構える感じがありません。
制服姿の子どもたちは、カメラを向けると、口を手で隠して笑ったり、友だちの肩に手をかけてふざけたりしていました。小さな子を抱いた女の子は、お菓子を食べながら、じっとこちらを見ていました。ニワトリを大事そうに抱えて立っている男の子もいました。
決して裕福な島ではないと思います。それでも、会う人たちが楽しそうで、こちらまでうれしくなりました。
挨拶をして、笑顔が返ってくる。それだけのことなのに、歩いているうちに、自分の気持ちがどんどんほぐれていきました。こんなに気持ちが豊かになる場所は、なかなかありません。
浜では、水揚げされたタコを見せてもらいました。発泡スチロールの板の上で、まだつやつやしています。
その横には、漁に使う手づくりの仕掛けが置いてありました。カニの形に色を塗ったもの、布を何本も垂らしたもの。どれも漁師さんが自分で工夫してつくったものです。
私たちが日本へ届けているタコは、こうした島で、こうした人たちが一匹ずつ獲ったものです。
ふだんの仕事では、どうしても数量や価格、規格の話が中心になります。今回は、そのタコを獲っている人たちの暮らしを、少しだけ見ることができました。
【写真:IMG_4399 浜辺に並ぶ漁船】
帰りの船を待つあいだ、浜で遊んでいた男の子が、ちらっとこちらを振り返りました。
【表紙写真】
11月から、いよいよタコのシーズンが始まります。今年も、この島の人たちの顔を思い浮かべながら、タコを日本へ届けていきたいと思います。