旅に別れはつきもの。それでも名残惜しさを感じるのは、そこに温かさや発見があったからこそ。インドネシア・中部ジャワの町ジェパラで過ごした日々も、気づけば最終日を迎えました。最後の一日は、海を眺めながらの朝食に始まり、田園風景を楽しみながらスマランの空港へ向かう、のどかでゆったりとした時間の流れに包まれていきます。
宿泊していたのは、ジェパラの海沿いにひっそりと佇む「Seabirds Bed and Breakfast」。目の前に広がるのは、漁村の穏やかな海。砂浜の代わりに小舟が揺れる漁港風の風景が、ローカル感たっぷりの朝を演出してくれます。
このヴィラの魅力のひとつが、朝食の時間。
屋外テラスのダイニングで提供されるナシゴレンとフルーツのプレートは、海風と相まって格別の味わい。ココナッツの木越しに見える水平線、漂う潮の香り、心を落ち着かせる波の音──都会の喧騒とは無縁のこの空間でいただく朝食は、まるで心を整える“朝の儀式”のようでした。
朝食後はゆっくりと荷造りをしながら、部屋で最後のひとときを過ごします。チーク材のベッドや机、温もりのある木製インテリアに囲まれて、ジェパラの木工文化を肌で感じる時間に。
11時過ぎ、スタッフに感謝を伝えてチェックアウト。名残惜しさを胸に、空港へと向かいます。
ジェパラからスマランのアフマド・ヤニ空港までは、車で約2〜3時間の行程。今回は15時過ぎ発のマカッサル行きライオンエアに搭乗する予定だったため、渋滞なども想定し、余裕をもって早めに出発しました。
最初の道は、海沿いののどかな田舎道。広がる塩田の風景が印象的で、白く乾いた地面に塩が天日で結晶化していく様子は、まるで自然のキャンバスのよう。
ところどころに建つ作業小屋や、天秤棒を担ぐ農夫の姿も目に入り、まるで昭和の日本の農村を思い出させるような、懐かしさを感じました。
その後、デマックという町を通過しますが、このあたりは道幅が狭く交通量も多いため、渋滞が起きやすいエリア。とはいえ、道端に並ぶ屋台や市場の風景を車窓から眺めていると、時間の流れすら心地よく思えてくるから不思議です。時折、放牧された牛やヤギがのんびりと歩く草原も見られ、旅の余韻に浸るにはぴったりの光景でした。
一番の難関は、スマラン市街地手前の高速道路区間。前日までの大雨の影響で一部道路が冠水し、交通が大幅に滞っているという情報が入ってきます。Googleマップの予想到着時間も、じわじわと遅れていく──「これは間に合わないかもしれない」と、少し焦る時間帯でもありました。
それでも、ドライバーが地元の裏道を巧みに活用してくれたおかげで、渋滞をうまく回避。結果的に14時ちょうどにアフマド・ヤニ国際空港へ到着し、無事にチェックインを済ませることができました。
ジャワ島内での中距離移動では、「Googleマップを鵜呑みにしない」ことが肝心。地方から都市部への移動には必ずと言っていいほど予期せぬトラブルが起きるため、出発前の1〜1.5時間の余裕を確保しておくのが安心です。
空港ではセキュリティチェックを終え、出発前の少しの時間を空港レストランで過ごしました。この日選んだのは、スラバヤ名物の黒スープ「ラウォン」。香ばしい牛肉とブラックナッツの風味が溶け合った独特の味わいが、どこか旅の終わりを静かに締めくくるように感じられました。
目を閉じれば、ジェパラでの出来事が次々と思い出されます。波の音、穏やかな人々の笑顔、TikTokライブでの不思議な出会い、そして海辺のビラで迎えた朝の静けさ。そのすべてが心の引き出しにそっとしまわれていく感覚。
今回のジェパラ滞在は、いわゆる“観光地”とは違う、素朴で静かな旅でした。派手なアトラクションや有名な絶景スポットはなくとも、日々の暮らしの中に溶け込むような時間、旅の“余白”を感じるひとときが、この地にはありました。
塩田の広がる田園風景を眺めながら空港へ向かう──その道のりさえも、旅の一部。ローカルな空気と素朴な人の営みに触れながら、またひとつ、忘れがたい旅の記憶が増えました。