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17歳になると銀行口座が届く。インドネシア政府の本当の狙いは何か

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インドネシアで、少し気になるニュースが流れました。政府は、国民への銀行口座の普及を大規模に進め、今後は17歳になってKTP(住民証)を取得する人にも、自動的に口座を提供する仕組みを検討しているというのです。しかも、新しくつくられる口座には、政府が5万ルピアを入金します。

5万ルピアといえば、日本円にして400円ほどです。それほど大きな金額ではありません。それでも、政府が国民一人ひとりのために口座を用意し、最初のお金まで入れるとなれば、かなり大がかりな政策です。政府が進める口座普及計画全体では、2億人超が対象として想定されています。仮に1人当たり5万ルピアを用意すると、必要な資金は約11兆ルピアにのぼります。

最初は、「政府が若者に5万ルピアを配るのか」くらいに思っていました。しかし、記事を読み進めていくと、どうも5万ルピアを配ること自体が目的ではなさそうです。その先には、インドネシアの社会の仕組みを大きく変える構想が見えてきます。

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KTPと一緒に銀行口座を持つ時代へ

報道によると、17歳になってKTPを取得する国民に、銀行口座を提供する仕組みが検討されています。最初に窓口となるのは、国営銀行のBRIとBSIです。政府が1口座につき5万ルピアを入金し、そのお金が銀行の手数料で減らないようにします。口座はQRISとも連携し、買い物や送金に使えるようにする計画です。将来的には、Bansosと呼ばれる社会扶助の受取口座としての利用も考えられています。

この構想について説明したのは、アイルランガ経済調整相です。Bali Postだけでなく、国営通信社ANTARAも同じ内容を報じているため、発言そのものは事実と考えてよいでしょう。ただし、すでに実施が決まったわけではありません。記事にも「規則は現在策定中」と書かれています。BI(中央銀行)、OJK(金融監督庁)、Dukcapil(人口・民事登録総局)、そして銀行側との調整が必要です。財務相も、11兆ルピアとされる予算はまだ最終決定していないと説明しています。現時点では、プラボウォ大統領の指示を受け、政府が具体的な仕組みをつくり始めた段階です。

5万ルピアは、口座を使ってもらうためのきっかけ

5万ルピアは、生活を支えるには小さすぎる金額です。誕生日にもらえれば少しうれしいかもしれませんが、それで暮らしが変わるわけではありません。政府も、生活支援を目的に5万ルピアを入れるわけではないでしょう。おそらくこれは、口座を開き、実際に使ってもらうためのきっかけです。残高がゼロの口座だけ渡されても、多くの人は使わないかもしれません。しかし、最初から5万ルピアが入っていれば、QRISで一度支払ってみよう、家族へ送金してみようという動機が生まれます。

政府の狙いは、できるだけ多くの国民に「政府から直接お金を送れる受取口」を持たせることではないでしょうか。そう考えると、5万ルピアはプレゼントというより、新しい仕組みに入ってもらうための呼び水に見えてきます。

銀行が日常の外にある人たち

インドネシアでは、都市部を中心に銀行アプリやQRISが急速に広がっています。マカッサルでも、モールやレストランではQRISを使うのが当たり前になりました。小さな屋台でも、QRコードを置いている店をよく見かけます。その一方で、インドネシア全体を見れば、銀行口座を持たない人はまだ少なくありません。

世界銀行が2021年に実施したGlobal Findexの調査では、インドネシアの15歳以上のうち、銀行や金融機関、モバイルマネーの口座を持つ人は約52%でした。当時は、成人のほぼ半数が口座を持っていなかったことになります。その後、デジタル決済や金融サービスの普及は進んでいますが、地方や離島では今も現金中心の生活が残っています。OJKとBPSが発表した2025年の「金融包摂率」は80.51%まで上昇しています。ただし、ここには銀行口座だけでなく、電子マネー、保険、融資などの金融サービスも含まれます。国民の8割が銀行口座を持ち、日常的に使っているという意味ではありません。

私自身、マカッサル近郊の漁村を訪れてきました。そこで目にするのは、今も現金を中心に回っている経済です。漁師が魚やタコを売り、その場で現金を受け取る。受け取ったお金で燃料や食料を買い、家族の生活費に充てる。銀行へ預けるという段階を通らず、お金がその地域の中で動いていきます。銀行の支店やATMが近くにない場所もあります。口座を持つ必要性を感じていない人や、手続きが難しいと感じている人もいるでしょう。銀行という存在そのものが、毎日の暮らしの外側にあるのです。今回の政策が本当に全国へ広がれば、こうした人たちも初めて銀行口座を持つことになります。

給付金の配り方が変わる

国民の多くが自分名義の口座を持つようになれば、最初に変わるのは、政府による給付金の配り方でしょう。インドネシアでは、Bansosなどの社会扶助が、地方行政や地域の担当者を通じて配られることがあります。現金や物資を多くの人の手を経て届けようとすれば、どうしても時間とコストがかかります。受給者名簿の重複や、すでに亡くなった人の名義が残る問題もあります。途中でお金や物資が減ってしまう可能性も否定できません。

KTPのNIKと本人名義の口座がつながれば、政府は対象者へ直接お金を振り込めます。誰に、いつ、いくら支給したのかも記録に残ります。二重給付や架空受給を見つけやすくなり、仲介者による中抜きも防ぎやすくなります。政府から国民へ直接送金できる仕組みが全国規模で完成すれば、行政にとって大きな変化です。今回の政策で最も分かりやすい目的は、ここにあると思います。

NIKは、すでに税務情報ともつながっている

ただ、この仕組みの意味は、給付金の効率化だけではありません。インドネシアでは、KTPに記載されるNIKを、税務上のNPWP(納税者番号)として利用する統合が進められています。そこへ銀行口座が加わり、さらにQRISの利用が広がると、NIKを中心に、住民情報、税務情報、銀行口座、デジタル決済がつながっていくことになります。

もちろん、口座とNIKが結びついたからといって、政府が無条件にすべての取引を自由に見られるわけではありません。銀行の情報を税務調査などに利用するには、法律上の条件や手続きがあります。ただし、NIKがNPWPとして使われるようになっても、すべての国民に自動的に納税義務が生じるわけではありません。所得などが課税要件を満たした場合に、申告や納税が必要になります。それでも、税務申告の内容と金融情報を照合するための土台が整っていくことは確かです。

住民番号、納税者番号、公金の受取口座を結びつけるという点では、日本のマイナンバー制度と共通する方向性があります。ただし、日本でも、すべての銀行取引がマイナンバーによって常時把握されているわけではありません。インドネシアの制度が今後どのように設計されるかも、まだ分かりません。両国の制度をそのまま同じものとして考えるのは早いでしょう。

現金で動いてきた商売はどうなるのか

会社員の給与は、会社側の記録や源泉徴収があるため、比較的把握しやすい収入です。一方、インドネシアには、個人商店、屋台、漁業者、農業者、仲買人など、現金を中心に商売をしている人が大勢います。どれだけ売上があり、どれだけ利益を得たのか。外から正確に把握するのは簡単ではありません。本人も、きちんと帳簿をつけていないことがあります。

こうした取引の一部がQRISや銀行口座を通るようになれば、これまで現金の中に隠れていたお金の流れが、少しずつ記録として残るようになります。だからといって、口座への入金をそのまま所得とみなすことはできません。借入金かもしれませんし、家族からの送金かもしれません。立て替えたお金が戻ってきただけという場合もあります。売上と利益も同じではありません。ただ、税務申告ではほとんど収入がないことになっている人の口座に、継続して大きなお金が入っていれば、税務当局が確認するきっかけにはなります。制度と運用が整えば、これまで見えにくかった経済活動を把握しやすくなる可能性はあります。

便利になる一方で、気になることもある

この政策には、多くの利点があります。地方や離島に住む人も、給付金を直接受け取れるようになります。口座を入り口として、貯蓄、保険、融資などの金融サービスを利用できる人も増えるでしょう。現金給付に伴う不正が減り、きちんと税金を払っている人との公平性が高まる可能性もあります。

一方で、気になる点もあります。NIK、銀行口座、QRIS、税務情報がつながったとき、誰がどこまでその情報を見ることができるのでしょうか。大量の個人情報を、政府や金融機関が安全に管理できるのかという問題もあります。口座の売買や名義貸し、オンライン詐欺など、別の犯罪が増える可能性もあります。本人が仕組みをよく理解しないまま口座だけつくられ、暗証番号やスマートフォンを他人に預けてしまうことも考えられます。特に地方では、口座をつくるだけでなく、安全な使い方を伝えることが欠かせません。口座を持つことと、口座を正しく使えることは、同じではないのです。制度だけを一気に広げても、使われない口座が大量に残るかもしれません。高齢者やデジタル機器に慣れていない人が、かえって不便を感じる可能性もあります。

最後は税収強化につながるのか

政府が現在説明している目的は、金融サービスを利用できる人を増やすこと、Bansosを効率よく届けること、QRISを普及させること、そして給付をめぐる不正を減らすことです。今の段階で、これを「税金を取るための政策だ」と決めつけることはできません。しかし、NIK、NPWP、銀行口座、QRISが一体化すれば、将来的に無申告や過少申告を見つけるための基盤として使うことができます。政府にとっては、給付を正確に届けるための仕組みであると同時に、国民の経済活動をこれまで以上に把握できる仕組みにもなります。最初はBansosのためにつくられた口座でも、後から税務や融資審査、各種行政サービスに利用される可能性は十分にあります。

おそらく、この政策の本当の大きさは、5万ルピアを配ることではありません。これまで現金だけで動いていた商売やお金の流れを、国のデジタルな仕組みの中へ少しずつ取り込んでいくことにあります。

17歳に渡される口座の、その先

17歳になった国民の口座に入れるという5万ルピアは、小さな金額です。しかし、その口座にNIK、QRIS、社会扶助、そして将来の税務情報までつながっていけば、意味はまったく変わります。これは、若者に銀行口座をプレゼントするだけの政策ではありません。現金を中心に動いてきたインドネシア社会を、口座とデジタル決済が広く使われる社会へ変えていく。その大きな一歩になる可能性があります。日本のマイナンバー制度にも通じる仕組みが、17歳になった国民に用意される一つの銀行口座から、静かに形になっていくのかもしれません。

出典
Bali Post: https://www.balipost.com/news/2026/09/09/580329/Tak-Cuma-Dapat-KTP,Warga…html
ANTARA: https://www.antaranews.com/berita/5733532/airlangga-pemerintah-siapkan-rp11-triliun-untuk-rekening-massal
世界銀行 Global Findex(インドネシア, 2021): https://microdata.worldbank.org/index.php/catalog/4654
OJK・BPS SNLIK 2025 公式発表: https://ojk.go.id/id/berita-dan-kegiatan/siaran-pers/Pages/OJK-dan-BPS-Umumkan-Hasil-Survei-Nasional-Literasi-Dan-Inklusi-Keuangan-SNLIK-Tahun-2025.aspx

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kenji kuzunuki

葛貫ケンジ@インドネシアの海で闘う社長🇮🇩 Kenndo Fisheries 代表🏢 インドネシア全国の魅力を発信🎥 タコなどの水産会社を経営中25年間サラリーマン人生から、インドネシアで起業してインドネシアライフを満喫しています。 インドネシア情報だけでなく、営業部門に長年いましたので、営業についてや、今プログラミングを勉強中ですので、皆さんのお役にたつ情報をお伝えします。

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