バリ最終日にまさかのガルーダ・インドネシアGA620便が約5時間半の遅延。
予定が狂った一日も、視点を変えれば穏やかな癒しの時間に。
昼間のジンバランビーチの静けさ、ガネーシャカフェで味わう冷えたビール、そして空港ラウンジの落ち着き――。
「予定外」さえ旅の思い出に変わる、バリでの午後をお伝えします。
バリ滞在の最終日、マカッサルへ戻る予定だった朝。
スマートフォンに届いたガルーダ・インドネシア航空からの通知を開くと、思わず目を疑いました。
「DPS–UPG / GA620 / 05 OCT 11:20 LT → 16:55 LT」
― なんと約5時間半のディレイ。
一瞬、言葉を失いました。
お客さんとの同行スケジュールをきっちり組んでいたこの日に限っての大幅遅延。
「よりによって、ガルーダなのに……」と、思わず苦笑い。
しかし、せっかくのバリ最終日。
怒っても仕方がありません。
気持ちを切り替えて、「これは天からの“もう少しバリを楽しめ”というメッセージかもしれない」と前向きに捉えることにしました。
もともと午前11時の出発予定だったため、早めに荷造りをして空港へ向かうつもりでした。
しかし、16時55分発に変更されたことで、たっぷりと時間の余裕ができました。
カフェでコーヒーを飲みながら作戦会議。
「せっかくだから、昼間のジンバランビーチでも歩いてみよう」と決めました。
予定が変わると、気持ちまでゆるやかになります。
せかせかした出発前の朝が、思いがけず穏やかな時間に変わっていきました。
昼過ぎ、太陽が真上に照りつける時間帯。
車でジンバランの海沿いへ向かうと、そこには予想外の光景が広がっていました。
夕暮れ時には観光客や地元の人で賑わうジンバランビーチも、昼間はほとんど人影がありません。
強烈な日差しに、ビーチ沿いのテーブルはどこも空席。
スタッフたちは木陰でのんびりと過ごし、波打ち際には数人のローカルが行き来する程度です。
白い砂がさらさらと足元を流れ、遠くには漁船がゆらゆらと浮かんでいました。
「昼のジンバランって、こんなに静かなんだ」と、少し驚かされました。
観光の喧騒とは無縁の、のどかな海辺。
風が吹くたびに、海の匂いとともに心がすっと軽くなっていくのを感じました。
あまりの暑さに、歩く気力もなくなってきたところで目に入ったのが「Ganesha Cafe(ガネーシャ・カフェ)」。
ジンバランを代表する老舗のシーフードレストランです。
夜は夕日を眺めながらのロマンチックディナーで有名ですが、昼間は人も少なく、波の音を聞きながらのんびり過ごせる穴場スポットでもあります。
テーブルの上には赤いBINTANGビールのパラソルが立ち、目の前にはどこまでも続く青い海。
冷えたビールを一口飲むと、火照った体に染み渡るような心地よさが広がります。
誰もいない砂浜を眺めながら過ごす時間。
「予定外の待ち時間も悪くないな」と、自然に思えてきました。
潮風に包まれ、波の音がリズムを刻む。
そんな昼下がりの静けさが、旅の終わりにふさわしい“癒しの時間”をくれました。
午後4時を過ぎ、そろそろ空港へ向かう時間。
ングラ・ライ国際空港(デンパサール空港)に到着すると、すでに多くの人で混雑していました。
チェックインカウンター前には長蛇の列。
遅延便に加え、同じ時間帯に出発する便も多く、ロビーはざわめきに包まれています。
それでもガルーダのスタッフたちは落ち着いた対応で、一人ひとりを丁寧に案内していました。
ようやく順番が回ってきて、チェックインを終えると、手渡されたのは小さな紙。
中には「Voucher Kompensasi Keterlambatan(遅延補償券)300,000ルピア分」。
さすがガルーダ、しっかりと補償対応をしてくれるのは安心感があります。
出発までまだ時間があったので、空港内の「Premier Lounge」へ。
ウッド調の内装に柔らかな照明、清潔で落ち着いた空間が広がっています。
滑走路を見渡せるソファ席に腰を下ろし、コーヒーを片手にしばし休憩。
軽食コーナーにはナシゴレンやパン、スープなどが並び、遅延で疲れた心を少し癒してくれました。
周りを見渡すと、同じGA620便を待つ乗客もちらほら。
それぞれがスマートフォンを見つめながら、静かに出発を待っています。
遅れた分、どこかに共通の“諦めと安堵”が漂っていて、不思議な一体感がありました。
ラウンジを出る頃には、外はもう夕方。
滑走路の向こうには、バリの空に沈むオレンジ色の夕陽が広がっていました。
「ようやく出発できそうだ」と、心の中でつぶやきながらゲートへ向かいます。
予定外の5時間半の遅延。
スケジュールが崩れた一日は、最初こそ焦りと困惑の連続でした。
けれど、ふたを開けてみれば、静かなジンバランの昼の海と、冷たいビール、そして空港ラウンジでの穏やかな時間。
それは、計画にはなかった“ゆとり”という名の贈り物でした。
旅には思い通りにいかない瞬間がつきもの。
でも、そんな“予定外”こそが、あとになって思い出すと心に残るものなのかもしれません。