寿司やラーメン、丸亀製麺が日常の風景になったインドネシア。日本食はすでに第1フェーズを終え、次の段階へ向かっているのではないでしょうか。ナシチャンプル文化をヒントに、焼き物や揚げ物を軸とした“和食再設計”モデルについて考えてみます。派手さからバランスへ。文化理解とビジネス構造の両面から、第2の日本食成熟期の可能性を探ります。
週末、ジャカルタやマカッサルのモールを歩いていると、日本食はもはや特別な存在ではないと実感します。
ラーメン店の前にできる列。
家族連れでにぎわう丸亀製麺。
カジュアルに選ばれる寿司ロール。
日本食は「挑戦する料理」ではなく、「安心して選べる料理」になりました。
これは大きな変化です。
海外で日本食が広がるとき、最初に受け入れられるのは、味が強く、分かりやすく、写真映えする料理です。寿司やラーメンはその典型でした。
インドネシアもその第1フェーズを順調に通過したと言えるでしょう。
では、その次は何でしょうか。
インドネシアには、すでに完成された外食モデルがあります。
ナシチャンプルです。
ごはんの上に、好きなおかずを選んで乗せる。
揚げ物もあれば、煮物もあり、野菜もあり、卵もある。
カウンター越しに指さして選ぶ。
この「選ぶ文化」は、非常に強い基盤です。
私はこの風景を見ながら、こう考えました。
もし、この構造を“和食”で再設計したらどうなるのだろうか、と。
ここで重要なのは、「日本の和食をそのまま持ち込む」のではなく、「再設計する」という視点です。
たとえば、京都のおばんざいをそのまま並べても、インドネシアでは弱い可能性があります。
理由は単純です。
インドネシアの外食における安心基準は、
温かいこと。
味がはっきりしていること。
ある程度の満足感があること。
だからです。
冷たい小鉢だけでは物足りない。
味が優しすぎると印象に残らない。
文化理解が進んでいるとはいえ、まだそこまでの段階には至っていません。
では、どうすれば成立するのでしょうか。
鍵は「焼き物」と「揚げ物」です。
まず、メインは必ず温かい料理にします。
照り焼きチキン。
サーモングリル。
牛すき焼き風。
唐揚げやチキン南蛮。
ここで満足感をつくります。
その上で、副菜を選べるようにします。
ほうれん草の胡麻和え。
きんぴら。
だし巻き卵。
海藻サラダ。
ここで“バランス”と“健康”を演出します。
さらに、味噌汁やだしスープを添える。
出汁文化への入口です。
これは単なる和食ではありません。
「Japanese Balanced Grill Plate」という再設計です。
では、この業態はチェーン展開できるのでしょうか。
ここが最大のポイントです。
副菜はセントラルキッチンで製造し、各店舗では焼く・揚げる・盛るに集中する。
ナシチャンプルと同じく、カウンターで指さし方式にすれば、教育コストは低く抑えられます。
価格帯はローカルより上。
しかしラーメンと同程度か、やや高い程度。
ターゲットはモールの中間層やオフィスワーカー、ジム帰りの層です。
「Japanese Healthy Plate」というポジションであれば、安売りに巻き込まれずに展開できる可能性があります。
私は、日本食の第2フェーズとは「派手さからバランスへの移行」だと考えています。
濃さよりも、調和。
量よりも、質。
刺激よりも、安心。
もしインドネシアで、こうした価値観が主流になっていくのであれば、和食プレート業態は象徴的な存在になるでしょう。
第1フェーズが“分かりやすい日本”なら、第2フェーズは“理解される日本”です。
もちろん、リスクはあります。
中途半端な価格設定。
ローカルとの差別化不足。
「ただ高いナシチャンプル」と思われる危険。
しかし、時間軸を10年で見るならどうでしょうか。
インドネシアは2.8億人市場です。
中間層は拡大を続けています。
健康志向は確実に強まっています。
日本食がここまで浸透したいま、「次の段階」を考えるのは自然な流れです。
インドネシアは第2の日本食成熟期に入るのか。
その答えはまだ出ていません。
しかし、ナシチャンプルという日常の風景を見ていると、日本式チャンプルという再設計モデルは、決して空想ではないと感じます。
文化はすでにある。
あとは構造です。
和食をそのまま持ち込むのではなく、
インドネシアの文脈に合わせて再設計する。
その企業が現れたとき、
日本食はもう一段、深く根付くのではないでしょうか。