ラオス・ビエンチャンの夜は、思っていたよりも早く静まります。
日が沈むと、街の音は急速に角を落とし、空気そのものが「一日の終わり」を受け入れていくような感触に変わっていきます。
この街で過ごした時間が、ゆっくりと身体から抜けていくのを感じながら、飛行機に乗り込みました。
次の目的地はベトナム・ホーチミン。翌日のトランジットのための移動です。
所要時間は約2時間。飛行機に乗ってしまえば、あっという間の距離です。
けれど、この夜のフライトには、単なる「移動以上」の意味がありました。
国を一つ越えるというより、空気の密度を切り替えるような感覚に近かったからです。
ビエンチャンの空港は、必要以上に大きくありません。
その分、動線が分かりやすく、余計な緊張が生まれにくい場所です。
ホーチミンからの折り返し便ということもあり、到着してから15分ほどで搭乗が始まりました。
国際線でありながら、このスピード感。
待たされることも、煽られることもありません。
「今から飛びますよ」という事実だけが、淡々と提示される感じが心地いい。
選んだのはLCCのVietjet。
派手なサービスはありませんが、その分、移動の本質だけが残る航空会社だと感じています。
機内は満席ではなく、空席も目立ちました。
バックパックを抱えた旅行者、出張帰りのビジネスマン、家族連れ。
目的も背景も違う人たちが、同じ夜の空を共有しています。
座席は革張りで、決して豪華ではありません。
けれど、短時間の国際線としては十分。
余計なものがない分、身体も気持ちも預けやすい。
窓の外を見ると、
ラオスの夜景が、点の集まりとして静かに広がっています。
派手さはないけれど、落ち着いた光。
この国らしい、控えめな明るさです。
機体が滑走路を進み、夜空へ浮かび上がる瞬間。
この感覚は、何度経験しても、少しだけ背筋が伸びます。
けれど、空に出てしまえば、あとは驚くほど穏やかでした。
揺れも少なく、アナウンスも最低限。
機内では、それぞれがそれぞれの時間を過ごしています。
誰も、特別なことを期待していない。
だからこそ、何も起きないことが価値になる。
国境を越える移動なのに、
ドラマチックな演出は一切ありません。
でも、この「静かさ」が、夜のフライトにはちょうどいい。
しばらくすると、窓の外の景色が変わってきます。
ラオスの控えめな灯りから、
徐々に、密度の高い光へ。
ホーチミンが近づいていることが、説明なしに分かる。
夜でも活動を止めない都市のエネルギーが、
空の上からでも伝わってきます。
同じ東南アジアでも、
都市が持つリズムは、こんなにも違う。
ラオスでほどけた感覚が、
少しずつ引き締まっていくのを感じました。
到着したのは、タンソンニャット国際空港。
混雑を覚悟していましたが、
この日は驚くほどスムーズでした。
到着後の流れは拍子抜けするほどで、
いつもは大行列になりがちなイミグレーションも、この夜はほとんど並ばず、5分ほどで入国。
夜遅い時間帯だったことも影響しているのかもしれません。
手続きは淡々と進み、気づけば外へ出ていました。
「大都市の夜着は疲れる」という先入観が、ここでは裏切られます。
整った導線と、人の慣れ。
この街が国際都市である理由が、こういうところに現れています。
翌日のトランジットに備え、空港近くのホテルを予約していました。
空港からホテルまでは地図上では近く、15分ほどで到着できる距離です。
ただし、道幅は広く、車もバイクも速度を出している。
歩道はほとんどなく、人が歩くことを前提に作られた道ではありません。
夜のホーチミンでは、
「距離」よりも「動線」を優先した方がいい。
結局、多少遠回りしながら歩いてホテルに到着しましたが、
近距離でもタクシーや配車アプリを使うのが正解だと感じました。
「距離的には歩けるが、人が歩く前提の道ではない」。
特に夜間は、無理をしない判断が大切です。
宿泊先は Le Saigon Hotel。
チェックインはスムーズで、部屋は窓のない、寝るだけを前提にした造りです。
コンパクトではありますが、清潔で、必要なものはきちんと揃っています。
この時間帯に「すぐ休める」ことのありがたさは大きい。
夜の移動のあとに、余計な手間がない。
それだけで、体感的な疲労はずいぶん軽くなります。
そのまま近くのコンビニへ。
ビールと軽食を買い、部屋に戻る。
この一連の流れが、
「ホーチミンに来た」という実感を、静かに完成させてくれました。
ビエンチャンの静けさから、
ホーチミンの夜の密度へ。
Vietjetのフライトは、
その切り替えを過不足なくやってくれました。
派手さはない。
でも、遅れもなく、混乱もなく、
ただ淡々と国境を越える。
旅の後半に、
こういう「静かな移動」が一つあると、
全体のリズムが整います。
この夜のフライトは、
その役割を、きちんと果たしてくれました。