雨季のバリを飛び立ち、乾季のホーチミンへ。
ベトジェットエアでの約4時間のフライトは、距離以上に「国と季節の違い」を感じさせる時間でした。
新しいA321neoの機内は意外なほど快適で、気づけば空の上で心と体が次の国へと切り替わっていきます。
到着後のタンソンニャット空港は相変わらずの混雑ぶりで、イミグレーションを抜けるまでにひと苦労。
それでも両替を済ませ、市内へ向かう頃には旅のリズムが整っていました。
翌日のビエンチャン行きまでの約20時間、少しばかりのホーチミン滞在が待っています。
すでにベトジェットのボーディングは始まっていました。
活気のある赤い機体を目にすると、「ああ、次はベトナムだ」と実感が一気に現実味を帯びます。
搭乗口に並ぶ人々の国籍も服装もさまざま。
バリを目的地にしていた人、次の国へ向かう人、それぞれの旅がここで交差しています。
今回の機材はA321neo。
LCCという先入観があると驚くかもしれませんが、機内は新しく、清潔感があり、座席の印象も悪くありません。
エンジン音も比較的静かで、巡航中は落ち着いた空気が流れます。
約4時間というフライト時間も、体感としてはそれほど長く感じませんでした。
座っているだけで国境を越え、気候帯を移動する。
飛行機という移動手段の不思議さを、あらためて感じます。
滑走路に向かってゆっくりと動き出した機体の窓から、デンパサール空港の広いエプロンが見えていました。
赤いベトジェットの機体が並び、その向こうには南国らしい淡い空の色。
雨季特有の湿り気を含んだ空気が、まだ機内にも残っているような気がします。
エンジン音が少しずつ大きくなり、機体が加速を始める。
この瞬間は、何度経験しても特別です。
「今いる場所から、確実に離れていく」
その実感が、身体ごと前に引っ張られる感覚とともに押し寄せてきます。
やがて機体は滑走路を離れ、バリ島の大地がゆっくりと遠ざかっていきました。
上昇を続ける機体は低い雲の層を突き抜け、やがて安定した高度に達します。
窓の外には、一面に広がる雲海。
さきほどまで感じていた湿った空気が嘘のように消え、機内は静かな巡航モードに入りました。
A321neoの機内は、LCCとは思えないほど落ち着いた雰囲気です。
会話や物音が必要以上に響くことはありません。
約4時間というフライト時間は数字で見るとそれなりに長い。
しかし、実際に座って過ごしていると、「長距離」というほどの疲労感は感じませんでした。
窓の下には、濃淡のある青が広がっていました。
インドネシアの海から、次第に色合いが変わっていくのが分かります。
雲の隙間から見える海岸線、遠くにぼんやりと浮かぶ陸地。
地図で見れば一続きの東南アジアですが、空から眺めていると、国境というものがいかに曖昧な存在かを思い知らされます。
それでも、これから向かう先はベトナム。
バリとは違う空気、違う街、違う時間が待っている。
そう思うと、自然と気持ちが前に向いていきました。
LCCなので、個人様モニターもなく映画を観るわけでもなく、音楽に集中するわけでもなく、ただ窓の外を眺める。
こういう「何もしない時間」は、旅の中で意外と貴重です。
次の乗り継ぎ、次の街、次の予定。
頭の片隅では考えているものの、今はそれを無理に整理しない。
機内という半分宙に浮いた場所だからこそ、思考も少し緩んでいきます。
今どのあたりを移動しているのだろうと想像しながら、気持ちを整えるための時間でもありました。
しばらくすると、機体はゆっくりと高度を下げ始めます。
窓の外には、雲の下に広がる陸地の輪郭がはっきりと見えてきました。
川が複雑に蛇行し、その周囲にびっしりと広がる街並み。
上空から見ても、ホーチミンのスケールは一目で分かります。
空の色も、バリとは少し違う。
湿度の低い、乾いた空気を感じさせる色合いです。
「確かに、国が変わったな」
そんな実感が、窓越しに伝わってきました。
着陸の衝撃とともに、機体は滑走路へ。
窓の外には、ずらりと並ぶ航空機と広大な空港施設が広がっています。
バリの空港とは、また違った熱量。
タンソンニャット空港は、いつ来ても人の動きが止まりません。
東南アジア有数の都市の玄関口として、その忙しさがそのまま表れているようです。
機体を降り、ターミナルへ。
そこから待っていたのは、相変わらずの混雑でした。
長い通路、人の波、あちこちから聞こえてくる多言語のアナウンス。
「これぞホーチミン」という光景に、少し苦笑しながらも、どこか安心感を覚えます。
イミグレーションを抜けるまでには時間がかかりましたが、それも含めてこの街らしさ。
無事に入国を終えたとき、「ようやくベトナムに来たな」という感覚が静かに胸に広がりました。
入国後、まずはベトナムドンへの両替。
現地通貨を手にした瞬間、その国に来た実感が一気に高まります。
大量のゼロが並ぶ紙幣にも、少しずつ慣れていきます。
今回は必要最低限だけ両替し、夕食代程度を確保しました。
ESIMでネット環境を整え、配車アプリを起動。
ホーチミンではGrabがほぼインフラのような存在です。
空港を出て車に乗り込むと、ようやく一息つけました。
車が空港を離れ、市内へ向かって走り出す。
窓の外には、夜のホーチミンの景色が広がっています。
途切れることのないバイクの流れ、ネオンと街灯が入り混じる光。
クラクションの音、屋台の明かり、歩道に集まる人々。
「夜なのに、街が全然眠っていない」
それが、ホーチミンに来るたびに感じる印象です。
バリの静かな夜とは対照的で、ここはエネルギーが外に溢れ出している街。
今回のホーチミン滞在は、あくまで次の目的地への通過点。
それでも、空港から市内へ移動するこの短い時間だけで、街の輪郭は十分に伝わってきました。
翌日はラオス・ビエンチャンへ向かう予定です。
約20時間という限られた乗り継ぎ時間を使って、ホーチミンを少し歩いてみたいと思います。
雨季の島から、乾季の都市へ。
リゾートから、喧騒の街へ。
移動そのものが、旅の記憶になる。
そう実感させてくれた、バリからホーチミンまでの空の時間でした。