1000ルピア札に描かれたマイタラ島でのシュノーケリングを終え、のんびりと過ごした島時間。小さな島ならではのゆったりとした空気の中で、地元の人々との出会いや食事、そして帰路に選んだ直行便の小舟体験。さらに、テルナテで出会った伝統料理「イカン・チャカラン・フフ」まで。今回は、マイタラ島からテルナテへ戻る旅の終盤をたどりながら、マルクの人々の温かさと食文化に触れました。
マイタラ島でのシュノーケリングを終えたあと、私は海辺のガゼボでひと休みしていました。潮風に吹かれながら濡れた体を乾かすだけでも十分幸せな時間でしたが、そこへ現地の家族から声をかけられます。テルナテから家族旅行で訪れているそうで、「一緒に食事をしませんか?」と誘ってくれました。
運ばれてきたのは、手作りのマグロのフレークとインドネシア定番のミーゴレン。シンプルながらも地元の味がぎゅっと詰まった温かい家庭料理でした。マグロのフレークは、ほぐした身を香辛料やサンバルで和えたもので、ご飯にも麺にも合う万能なおかず。こうした料理を、初対面の外国人である私にも惜しみなく分けてくれる優しさに胸がじんとしました。笑顔とともに差し出される料理が場を和やかにしてくれます。観光地では味わえない心のこもった「おもてなし」。旅の醍醐味は、こうした予期せぬ出会いにあるのだと改めて感じました。
そろそろ帰りの時間になり、テルナテへ戻る方法を相談していると、家族の一人が「一緒に船を案内しますよ」と声をかけてくれました。驚いたことに、マイタラ島から直接テルナテへ戻る船があるとのこと。行きはティドレ島を経由しましたが、帰りは乗り換えなしで戻れるのだそうです。
港に向かうと、小さな木造の船が待っていました。行きに乗ったバイクを積むタイプの船ではなく、人だけを運ぶ小舟。素朴ながら手入れが行き届き、安心感があります。
「こっちへ」と呼ばれながら船に乗り込み、ゆっくりと出航。振り返ると、マイタラ島の小さな集落と、1000ルピア札に描かれた景観が遠ざかっていきました。
船が沖に出ると、同行した家族に「あの景色はこのあたりですか?」と尋ねてみました。すると、「1000ルピアの景色は、テルナテから見たマイタラ島とティドレ島なんです。明日、テルナテから見てみるといいですよ」と教えてくれました。
なるほど、紙幣に描かれた風景はマイタラ島の視点ではなく、テルナテからの眺めだったのです。実際に訪れて体験してみないとわからないことばかり。旅の中で新しい発見があるたびに、ここに来て良かったと感じます。
この日の海は驚くほど穏やかで、波もほとんどありません。小舟でも揺れは少なく、海風が心地よい。視界に広がるのは緑豊かな島々と青い海、そして遠くにかすむテルナテの山並み。船上から眺める景色こそ、旅のクライマックスにふさわしい最高の瞬間でした。
20分ほどでテルナテの桟橋に到着。船頭さんにRp.20,000を支払い、無事に戻ってくることができました。マイタラ島とテルナテを直結するルートがあるなんて、現地の人に教えてもらわなければ決して知ることはなかったでしょう。
桟橋を降りると、ちょうど漁船が帰港したところでした。船員たちが小さなカツオを手際よく水揚げしている光景が広がります。
大きな籠に移されたカツオは、すぐに氷と一緒に詰められ、マナド(北スラウェシ州)へ運ばれるとのこと。テルナテはカツオやマグロの漁業が盛んな土地で、地元の暮らしと経済を支える大切な産業だと改めて実感しました。
その後に立ち寄った市場は、色鮮やかな総菜や食材が並び、活気にあふれていました。なかでも目を引いたのが、竹に挟まれて串焼きにされた魚。近づいてみると、それは「Ikan Cakalang Fufu(イカン・チャカラン・フフ)」と呼ばれる伝統料理でした。先ほど港で見たカツオが、こうして調理されるのだとわかります。
「Ikan Cakalang=カツオ」「Fufu=燻製・炙り焼きにする調理法」。この料理は北マルク州やマルク諸島で昔から親しまれてきた保存食です。木や竹で魚を挟み、炙りながら燻製にすることで長期保存が可能になります。香ばしい香りが市場いっぱいに漂い、食欲をそそります。
形を固定したまま焼かれるため持ち運びや保存にも適しており、かつては船旅の食料としても重宝されたそうです。今では市場や食堂で手軽に買える定番料理となり、ご飯と一緒に食べたり、ほぐしてサンバルと和えたりと幅広いアレンジが楽しめます。
今回は残念ながら口にする機会はありませんでしたが、料理を通してその土地の歴史や文化を知ることができたのは大きな収穫でした。
マイタラ島でのシュノーケリング、現地の家族との温かな交流、直行便の小舟での帰路。さらにテルナテの港で目にした漁業の光景や市場で出会った伝統料理。どれもが北マルクならではのかけがえのない体験でした。1000ルピア紙幣に描かれた島を訪れることは単なる観光ではなく、人々や文化、食べ物との出会いを通して旅をより豊かにしてくれます。観光ガイドに載っていない体験こそ、本当の意味での旅の記憶になるのだと実感しました。