インドネシア北マルク州・テルナテ島で香辛料の歴史を今に伝えるトルッコ砦と、マイタラ島やティドレ島を望む絶景スポット「タマン・コタ」を紹介。スパイスで栄えた歴史と壮大な自然を一度に体感できる街歩きを体験しました。
インドネシア東部・北マルク州に位置するテルナテ島は、クローブなどの香辛料で世界に名を馳せた「スパイスアイランド」のひとつです。かつてポルトガル、スペイン、オランダといった列強諸国がこぞって進出し、島の各地に砦や要塞を築きました。現在もその歴史の痕跡は街に点在し、旅人を過去へと誘ってくれます。
テルナテ市内の小高い丘に位置する「トルッコ砦(Benteng Tolukko)」は、16世紀にポルトガル人が建設した要塞です。その後スペイン人に支配され、さらにオランダの拠点へと変わっていくなど、時代の変遷をくぐり抜けてきました。
砦は比較的小規模ですが、石灰セメントで固められた壁には、サンゴや安山岩が使われており、当時の建築技術を今に伝えています。外観は重厚感がありつつも、保存状態は良好。周囲は整備され、花々が植えられた庭園も広がっていて、歴史遺産でありながら観光客にとって訪れやすい場所となっています。
階段を上ると、要塞の内部に足を踏み入れることができます。かつては兵士たちが監視や防衛に用いたであろう空間が残り、地下には小さな部屋や通路がひっそりと佇んでいます。長い年月を経てもなお、ひんやりとした石の質感に触れると、当時の息遣いが聞こえてくるようです。
トルッコ砦の魅力は、その立地にもあります。丘の上からはテルナテ市内を一望でき、赤茶色の屋根が密集する街並みの向こうに、穏やかな海とティドレ島の姿が広がります。
反対側を見渡せば、テルナテの象徴でもある「ガマラマ山」がそびえ立っています。雲に隠れがちなその姿は神秘的で、古くから島の人々の信仰の対象となってきました。歴史と自然、両方のスケールを一度に味わえるのは、この砦ならではの体験です。
小規模ながらも景観に恵まれたこの要塞は、単なる軍事施設ではなく、街と自然を結ぶ象徴的な存在に思えました。
テルナテの街を歩いていると、かつて「香辛料が黄金よりも高価」と言われた時代の面影を感じます。海沿いには倉庫や古い建物が並び、ヨーロッパ人商人が往来した往時の雰囲気を想像させます。
クローブをはじめとするスパイスは、テルナテの経済を支え、国際的な注目を浴びるきっかけとなりました。そのため、島にはポルトガルやオランダの要塞だけでなく、アラブ、中国、マレーの商人が築いたコミュニティも存在し、多様な文化が交差しています。街歩きをするだけで、建物や人々の表情にその歴史の片鱗を垣間見ることができます。
夕暮れ時には、市内中心部にある「タマン・コタ・テルナテ(Taman Kota Ternate)」を訪れました。ここは海沿いの公園で、家族連れや若者たちが集う憩いの場。
目の前に広がるのは、マイタラ島、ティドレ島、さらに奥にはハルマヘラ島まで見渡せるパノラマの絶景です。この日はあいにく曇り空で、時折小雨が降る天気でしたが、雲間から差し込む夕陽が海面を照らし、幻想的な光景を生み出していました。
海岸では地元の子どもたちが泳ぎ、波と戯れている姿も印象的。香辛料を求めてやってきた商人たちも、かつてこの海を目にしながら航海の疲れを癒したのだろうと考えると、歴史と日常が不思議に重なり合う瞬間でした。
トルッコ砦とタマン・コタをめぐるだけでも、テルナテが持つ歴史と自然の豊かさを深く感じることができました。要塞の石壁に刻まれたスパイス戦争の記憶、丘から望む街とガマラマ山の壮大な景観、そして海沿いで出会った人々の穏やかな暮らし。どれもが、テルナテという小さな島の大きな魅力を物語っています。
香辛料で栄えたテルナテは、単なる観光地ではなく「歴史と自然が融合した生きた博物館」のような場所でした。これから島のほかの砦やスルタンの宮殿を訪れる予定ですが、この街歩きだけでも十分に旅の価値を実感できました。