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インドネシアでは台風が発生しにくい理由

赤道直下の奇跡と、スコールに生きる人々の知恵

11月、インドネシアは雨季を迎えました。毎日午後になると、激しいスコールが街を濡らし、1〜2時間後には青空が戻る──そんな日々の繰り返しです。

一方で、同じ時期にフィリピンでは台風25号・26号が上陸し、各地に甚大な被害をもたらしました。

なぜ、同じ熱帯地域にありながらインドネシアでは台風がほとんど発生しないのでしょうか?

今回は「赤道直下の国」に生きるからこそ見える、気象の不思議をお伝えします。

雨季のインドネシア、毎日訪れる“午後の嵐”

11月に入ると、インドネシア全土は本格的な雨季に突入します。

朝は快晴でも、午後になると黒い雲が一気に立ち込め、強いスコールが降る。雷鳴とともに道路が一時的に冠水し、人々はカフェやワルン(屋台)に避難します。

しかし、雨が止むのも早く、1〜2時間後には再び太陽が照りつけ、街が息を吹き返します。

この季節、マカッサルでも午後3時前後に一度は強い雨が降ります。

それを分かっている地元の人々は、外出の時間を自然に調整しているのです。

「雨が来たら、少し休めばいい」。そんな、自然と共に生きるリズムが根付いています。

一方で、北東にあるフィリピンでは、同じ時期に台風25号・26号が立て続けに上陸。

強風による停電、住宅被害、道路の冠水など、大きな被害をもたらしました。

同じ東南アジアの国々なのに、この違いはどこから生まれるのでしょうか。

理由①:赤道直下では「台風の回転」が起きない

台風が生まれるためには、「渦を巻く力(コリオリの力)」が必要です。

地球の自転によって空気の流れが曲げられるこの力が、熱帯低気圧を回転させ、やがて台風へと成長させます。

ところが、赤道付近ではこのコリオリの力がほとんど働きません。

インドネシアは北緯6度から南緯11度の範囲に国土を持ち、まさに“回転が生まれない地帯”に位置しています。

いくら海水温が高くても、渦を巻く力がなければ、台風は育たないのです。

そのため、赤道を中心とするインドネシア上空は、気象衛星の台風進路図を見ると“空白地帯”になっています。

これは偶然ではなく、地球物理的に「台風が生まれにくい場所」だからなのです。

理由②:高温安定の海が「爆発」を防いでいる

台風のエネルギー源は、26.5℃以上の暖かい海です。

インドネシア周辺の海は年間を通して28〜31℃と高温。

一見すると「常に台風ができそう」に思えますが、実はその“安定した暖かさ”こそが、台風を抑える要因になっています。

気象現象は「温度差」から生まれます。

冷たい空気と暖かい空気がぶつかることで、上昇気流が強まり、嵐が発達します。

しかし、インドネシアでは大気と海面が常に高温で、気温差がほとんど生まれません。

エネルギーは毎日のスコールとして小出しに放出され、大きな嵐に育たない。

つまり、インドネシアの気候は「毎日少しずつ発散する穏やかな熱帯気候」なのです。

これが、激しいスコールが頻発しても、暴風を伴う台風にはならない理由です。

理由③:周囲の国々が“風の盾”になっている

インドネシアは広大な群島国家ですが、地理的に見ても“守られた場所”にあります。

北にはフィリピンやベトナム、西にマレーシア、南にはオーストラリア大陸が広がり、これらが天然の防波堤となっているのです。

太平洋で生まれた台風は、通常フィリピンや南シナ海を通過します。

赤道を越えて南半球に下ることは非常に稀で、力を失って消滅します。

一方、インド洋側で発生するサイクロンは、主にマダガスカルやオーストラリア方面へ進み、インドネシアにはほとんど近づきません。

そのため、インドネシアは“風の通り道から外れた国”として、アジアでも特異な存在なのです。

実際の生活 洪水はあっても「暴風被害」はほぼゼロ

筆者が住むマカッサルでは、雨季のスコールが日常の一部です。

確かに道路が冠水したり、通勤中に突然の大雨に見舞われることはあります。

しかし、風で木が倒れる、屋根が飛ぶ、電柱が倒壊するといった被害は、まず起きません。

現地の人々にとって、「雨=災害」ではなく「いつものこと」。

むしろ、スコールの後に涼しくなる空気を“恵みの雨”として受け止めています。

カフェの軒先で雨宿りをしながら、コーヒーを一杯。

それが、マカッサル流の「台風のない雨季の過ごし方」です。

それでも油断は禁物:雨季のリスクと備え

もちろん、「台風が来ない=安全」とは限りません。

インドネシアでは毎年、雨季になると局地的な洪水や地滑りが発生します。

都市部では排水設備が追いつかず、短時間の豪雨で道路が冠水することもあります。

また、長雨が続くと山間部では地盤が緩み、住宅が崩れる事故も少なくありません。

つまり、風ではなく水の災害に備えることが重要です。

雨季の旅行や出張の際は、時間に余裕を持ったスケジュールを組み、冠水リスクのある地域を避けることが賢明です。

世界でも稀な「台風のない国」

気象衛星の記録によると、過去70年間でインドネシア本土を直撃した台風はゼロ。

これは、世界でも非常に珍しい気象環境です。

引用;https://earthobservatory.nasa.gov/images/7079/historic-tropical-cyclone-tracks?utm_source=chatgpt.com

観光やビジネスの視点で見ても、自然災害が少ないというのは大きな魅力。

特に製造業やインフラ産業にとって、「台風による操業停止がない」というのは生産計画上の強みになります。

インドネシアが“安定した投資先”として注目される理由のひとつが、まさにこの「気候リスクの低さ」なのです。

まとめ:赤道直下の恩恵を受ける国、インドネシア

インドネシアは赤道直下に位置し、コリオリの力が弱いため台風が回転できない。

高温安定の海とスコール気候が、台風化を防いでいる。

周囲の国々が天然の壁となり、風の勢いを遮っている。

洪水はあっても、暴風被害はほぼゼロ。

11月の雨季、スコールに洗われた街の緑は一段と鮮やかになります。

雨の音に包まれながら、「この国には台風が来ない」という地球の神秘を感じる。

そんな穏やかな時間が流れるのが、インドネシアという国の魅力です。

kenji kuzunuki

葛貫ケンジ@インドネシアの海で闘う社長🇮🇩 Kenndo Fisheries 代表🏢 インドネシア全国の魅力を発信🎥 タコなどの水産会社を経営中25年間サラリーマン人生から、インドネシアで起業してインドネシアライフを満喫しています。 インドネシア情報だけでなく、営業部門に長年いましたので、営業についてや、今プログラミングを勉強中ですので、皆さんのお役にたつ情報をお伝えします。