赤いのにバナナ味!?マカッサル名物「ピサンアンボン」の魅力とは。1949年創業DHTの特産シロップが、なぜ家庭の必需品として愛され続けるのか。その理由を詳しく紹介します。
インドネシア・マカッサルで生活していると、スーパーの棚に驚く光景を目にします。
赤く透き通るシロップの瓶が、まるで棚を埋め尽くすようにぎっしりと並んでいるのです。
ラベルには鮮やかな緑色のバナナ。そして中身は真っ赤。
この独特のギャップこそ、「Sirup Pisang Ambon(シロップ・ピサンアンボン)」の特徴です。
マカッサルの人々にとって、ピサンアンボンは単なるシロップではありません。
名物デザートのピサンイジョ(Pisang Ijo)をはじめとするスイーツ文化の中心にあり、家庭の味・子どもの思い出・祝祭の飲み物として欠かせない存在です。ここでは、実際にマカッサルで生活して感じた“赤いバナナシロップ”の魅力を詳しく紹介します。
「ピサンアンボン(Pisang Ambon)」を直訳すると、“アンボン島のバナナ”という意味になります。
しかし実際は、
赤いシロップ
バナナ香料の甘い香り
ラベルには緑色のバナナ
という、第一印象からして非常にユニークな組み合わせです。
なかでも、マカッサルで圧倒的な存在感を放つのが 「DHT」ブランドのシロップ。
DHTは 1949年創業 の老舗で、マカッサルの人々に長く愛されてきた特産品です。
特徴は、新鮮なアンボンバナナエキスを使用した自然な香りと、鮮やかな赤色。
どのスーパーでもひと目で見つけられるほど存在感があります。
価格は Rp30,000前後(約280円)。家庭で気軽に使える定番シロップとして親しまれています。
特に面白いのは、
赤いのにバナナ味というギャップ。
しかしマカッサルでは、この赤こそが「デザートの定番色」なのです。
ピサンアンボンはインドネシア全土で売られているものの、特に南スラウェシでは圧倒的な存在感を誇ります。
その理由は大きく3つあります。
マカッサルの名物デザートといえば、「エス・ピサンイジョ(Es Pisang Ijo)」です。
構成は、
蒸したバナナを緑色(パンダン)の米粉生地で包む
かき氷の上にココナツミルクのクリームと練乳をのせる
最後に“赤いピサンアンボン”をたっぷりかける
という南国感あふれる一品。
この“赤いシロップ”があることで、
甘みと華やかさが一気に増し、味も見た目も「マカッサルそのもの」になります。
シロップをかけなければ、
色のコントラストが弱くなる
味の印象がぼやける
地元の人から「何か足りない」と言われる
というほど、欠かせない存在です。
ピサンアンボンはデザートだけでなく、家庭の飲み物としても非常によく使われます。
子ども向けのミルク割り
祝祭の席で出されるピンク色の特製ジュース
エスブア(ミックスフルーツ氷)の定番シロップ
など、とにかく用途が広い。
マカッサルの知人に話を聞くと、
「家にピサンアンボンがないと不安になる」とまで言う人もいます。
特にラマダン(断食月)は需要が急増。
断食明けの甘いドリンクに最適なため、スーパーの棚からどんどん消えていきます。
棚一面を真っ赤に染めるシロップの光景は、もはや季節の風物詩です。
ピサンアンボンの人気には、味以上に“記憶”の力があります。
学校帰りに飲んだ甘いシロップジュース
誕生日パーティーのテーブルに並んだ赤い飲み物
母が作ってくれた特製ミルクシロップ
こうした幼少期の思い出と強く結びついているのです。
そのため、ピサンアンボンを見ると自然と手が伸びる。
スーパーでも、地元の人が何本もカゴに入れる姿をよく見かけます。
これはもはや“生活必需品”の買われ方です。
マカッサルのスーパーでは、ピサンアンボンが棚一面にずらりと並びます。棚の半分以上がピサンアンボンのみ、という売り場も珍しくありません。
インドネシアの他地域でもシロップ文化はありますが、ここまで1種類のシロップが圧倒的な存在感を示す街は、マカッサル以外ではなかなかありません。
この光景から分かるのは、ピサンアンボンが流行ではなく、生活に深く根付いているという事実です。この普及率は、マカッサルが誇る“日常の食文化”そのもの。観光ガイドには載らないローカルのリアルが、ここに凝縮されています。
ピサンアンボンは、単なるシロップでも、デザートの添え物でもありません。マカッサルの食文化・家庭の記憶・街の味を形作る“生活の必需品”です。
特に DHT シロップは 1949 年から続く老舗ブランドとして、今もなおマカッサルの家庭と飲食文化を支えています。
棚いっぱいに並ぶ赤い瓶は、この街に生きる人々の価値観や習慣が色濃く表れた光景です。
もしマカッサルを訪れたなら、ぜひピサンイジョとともに、この“赤いバナナシロップ”を味わってみてください。その一口に、マカッサルの暮らしと歴史の深さが詰まっています。