インドネシアで焼き鳥といえば甘辛いタレのサテが定番。その常識を覆すのが、塩だけで仕上げる「サテ・タイチャン」です。そもそもタイチャンとは何なのか? なぜ若者を中心に支持されているのか? マカッサルで実際に食べた体験をもとに、味・サンバル文化・価格についてお伝えします。
インドネシアで串焼きといえば、甘辛いピーナッツソースをたっぷり絡めたサテが王道です。
屋台でもレストランでも、サテ=タレ、という構図は揺るぎません。
だからこそ、「塩焼きのサテがある」と聞いたとき、正直なところ半信半疑でした。
しかもそれが、マカッサルでローカルに支持されているというのです。
そんな違和感から足を運んだのが、
Sate Taichan Uncle Katsu でした。
まず整理しておきたいのが、「タイチャン」という言葉の意味です。
実はこの言葉、料理名としての正式な定義があるわけではありません。
ただし、インドネシアでは比較的知られた“由来”があります。
有力とされている説では、
ジャカルタでこのスタイルのサテを広めた「中国系インドネシア人の男性」のあだ名が「Taichan」だったと言われています。
彼が好んで食べていたのが、
という、当時としてはかなり異端のスタイルでした。
それが口コミで広がり、
「タレのサテではなく、タイチャンのサテ」
と呼ばれるようになった、というのが定説に近いストーリーです。
サテ・タイチャンは、インドネシアにおける“引き算の美学”が生んだ、完成度の高い塩焼き鳥です。
サテ・タイチャン最大の特徴は、タレを使わないことです。
味付けは塩のみ。
しかも主張しすぎない、あくまで輪郭を整えるための塩。
表面は香ばしく、中はしっとりと水分を保ったまま。
これは、素材・下処理・火入れのどれか一つでも欠けると成立しません。
つまりこの料理は、
ごまかしが一切きかない、正直なサテなのです。
サテ・タイチャンを語るうえで欠かせないのが、サンバルです。
この店では、
と、複数の選択肢があります。
重要なのは、
どれも塩焼き鳥の味を壊さないよう設計されていること。
主役はあくまで鶏。
サンバルは変化と刺激を与える存在です。
サテ・タイチャンが広がった理由の一つが、価格です。
焼き鳥10本:24,000〜29,000ルピア
食事+麺+ドリンクでも:50,000〜70,000ルピア程度
これは特別な外食ではなく、日常の夜ごはん。
家族連れ、仕事帰りの若者が自然に集まります。
最初の一口で感じたのは、
「派手さはないけど、間違いがない」という感覚でした。
日本の居酒屋で、
何も考えずに頼める塩焼き鳥に近い安心感があります。
実際に、サンバル・マタとの相性が抜群だった
個人的に一番おすすめなのが、
塩焼き鳥 × サンバル・マタ。
脂の甘み
→ 塩
→ ライムの酸味と唐辛子の辛さ
この流れが完璧で、10本が一気になくなります。
たとえば、締めまで想定された屋台設計
焼き鳥だけでなく、
ミー・ペダス(辛麺)
ナシ・ダダール・クリボ
ナシ・クリット
と、軽くも重くもできる構成。
完全に「日常使い」の店です。
ここで視点を変えて、
インドネシア人から見たタイチャンについて触れておきます。
「タイチャン=若者の食べ物」
反応はとてもシンプルでした。
「甘くないから好き」
「夜にちょうどいい」
「重くない」
ピーナッツソースたっぷりのサテが
「昼・家族・しっかり食べるもの」だとすれば、
タイチャンは
「夜・友達・軽くつまむもの」。
完全に別ジャンルとして認識されています。
都市部の若者を中心に、
インドネシア人の舌は確実に変わっています。
甘すぎると飽きる
素材の味を感じたい
そんな感覚に、タイチャンはぴったり合いました。
現地の友人が言った言葉が印象的です。
「タイチャンは、大人になった感じがする」
サンバルを“選ぶ”という自己表現
インドネシア人にとって、
サンバルは単なる調味料ではありません。
辛さ耐性
香りの好み
出身地域
それらが、「どのサンバルを選ぶか」に表れます。
塩味ベースのタイチャンは、
サンバルの個性が最も分かりやすく出る料理でもあります。
サテ・タイチャンは、日本風焼き鳥ではなく、インドネシアが生んだ“塩の進化形”です。
タイチャンとは「甘くないサテ」という明確な意思表示
塩とサンバルで成立する、引き算の料理
インドネシアの食文化は、確実に次の段階に進んでいる
日本人としては、「これでビールがあれば完璧なのに」と思いますが、インドネシアの若者に混じって、水を飲みながら辛さと格闘していました。
店舗情報
店名:Sate Taichan Uncle Katsu
instagram:@taichanunclekatsu
ハッシュタグ:#tidakpedistidakenak(辛くなければ美味しくない)