インドネシアで食事をすると、なぜか料理の横に「せんべい」が添えられている。おやつでもデザートでもないその正体は、食事に欠かせない存在「ペイェ」。地味なのに、なぜ毎日食べたくなるのか。食感、味、分け合う文化など、インドネシアの日常から見えてくる“ローカル最強スナック”の理由をお伝えします。
インドネシアで暮らし始めて数ヶ月。
ある日、ふと気づいたことがありました。
いつの間にか、自分の食卓に必ずあるものがあるのです。
誰かに強く勧められたわけでもなく、
「これは絶対においしい」と最初から思っていたわけでもない。
それなのに、気づけば毎日のように手を伸ばしている食べ物。
それが、ペイェ(Peyek)でした。
最初に見たときは、正直なところ「ただのせんべい?」と思いました。
茶色くて薄くて、見た目はかなり地味。
パッケージも簡素で、SNS映えとは無縁の存在です。
ところが、一口食べた瞬間に考えが変わりました。
これは「ただのスナック」ではありません。
カリッとした食感の奥に広がる香ばしさ。
ほんのりとした塩気。
噛むたびに感じる小魚やナッツの風味。
一枚食べ終わると、もう一枚。
気づけば、止まらなくなっている自分がいました。
ペイェは派手ではありません。
観光ガイドに載ることも、ほとんどありません。
それでも、インドネシアの人々の日常に深く根付き、何十年も愛され続けています。
なぜ、こんなにも素朴な見た目のスナックが、
これほどまでに生活に欠かせない存在になったのでしょうか。
今日は、インドネシアの日常を支える
「最強ローカルスナック」ペイェの魅力を、じっくりとお伝えします。
日本で「スナック」と聞くと、多くの人は間食やおやつを思い浮かべるでしょう。
ポテトチップスやせんべい、チョコレートなど、小腹が空いたときに食べるもの、というイメージです。
しかし、インドネシアにおけるペイェの位置づけは、それとは少し違います。
ペイェは「おやつ」ではなく、食事の一部なのです。
インドネシアの一般的な食卓を想像してみてください。
中央には白いご飯。
その周りにサンバル(辛味調味料)、テンペやトウフの揚げ物、野菜のスープ、魚や鶏肉のおかず。
そして、その脇に、自然と置かれているのがペイェです。
ペイェは主役ではありません。
けれど、なくてはならない存在です。
なぜなら、ペイェがあることで食事全体のバランスが整うからです。
インドネシア料理は、煮込みや揚げ物、ソースを使った料理が多く、
全体的にしっとりとした食感になりがちです。
そこにペイェのカリカリとした食感が加わることで、
食事にメリハリが生まれます。
柔らかいご飯とおかずの間に、パリッとした歯ごたえが挟まることで、口の中が飽きません。
さらに、ペイェの香ばしさと塩気が、他の料理の味を引き立てます。
辛いサンバルを食べたあとにペイェを一枚かじると、
口の中がすっとリセットされ、次の一口がまた新鮮に感じられるのです。
だからこそ、インドネシアの人々はペイェを「食事の一部」として扱います。
単体で食べることもありますが、本来の役割は、食卓を完成させる名脇役なのです。
日本でも、ご当地スナックや珍しいお菓子が話題になることがあります。
しかし、その多くは一時的なブームで終わり、数年後には姿を消してしまいます。
一方、インドネシアのペイェは違います。
何十年も前から食べられ続け、今も変わらず人々の生活にあります。
なぜペイェは、流行で終わらなかったのでしょうか。
ペイェの多くは、家庭や小さな工房で作られてきました。
大企業が市場調査をして開発した商品ではありません。
お母さんやおばあちゃんが、家族のために作り続けてきた味です。
だからこそ、「売るための味」ではなく、
毎日食べても飽きない味になっています。
派手ではありませんが、生活に自然と溶け込み、
「今日もあってよかった」と思える存在になるのです。
インドネシア料理は、柔らかい食感の料理が多いのが特徴です。
ご飯、スープ、煮込み料理、衣の柔らかい揚げ物。
そこで重要になるのが、カリカリとした食感です。
ペイェのようなパリパリした存在が加わることで、
食事全体が単調にならず、最後まで楽しめます。
これは、日本の食卓における漬物に近いかもしれません。
なくても食事は成立しますが、あることで満足度がぐっと高まります。
ペイェは、一人で完食することを想定していません。
大きな容器に入れて食卓の中央に置き、皆で分け合います。
誰かが一枚取ると、自然と次の人も手を伸ばす。
そんな何気ないやり取りが、ペイェを通して生まれます。
「一緒に食べる」ことを大切にするインドネシアの文化に、
ペイェはとてもよく合っているのです。
マカッサルを含む東インドネシアのペイェは、
他の地域に比べて味がしっかりしていると言われます。
小魚が多く使われ、塩気はやや強め。
高温で揚げることで、香ばしさも際立っています。
これは嗜好の違いではなく、
ご飯と一緒に食べることを前提にした必然です。
ペイェは、一枚で完璧に満足させません。
少しだけ物足りなさを残します。
だから、もう一枚手が伸びるのです。
さらに、一枚一枚の個体差も魅力です。
小魚が多いもの、ナッツが多いもの、厚みの違い。
「次はどんな一枚だろう」
そんな小さな期待が、止まらなさを生みます。
ペイェは、インドネシアの日常を支える存在です。
目立たなくても、なくなると少し寂しい。
見た目は素朴ですが、
一度食卓に置かれると、自然と手が伸びます。
それが、
インドネシアの日常に溶け込むローカル最強スナック「ペイェ」だと気づきました!