バンドン駅から出発した在来線特急「PARAHYANGAN(パラヒャンガン)」プライオリティ席の旅。いよいよ列車がチマヒを出発してからガンビル駅に到着するまでの3時間、沿線に広がる絶景とプライオリティ席ならではの豪華なサービスをお伝えします。
13時18分、列車はバンドン郊外のチマヒ駅を静かに発車。ここから先は、ジャワ島西部の山岳地帯へと入っていきます。窓の外には民家が途切れ、やがて緑の斜面と濃い木々が広がる景色に。列車は急カーブが続く区間に差し掛かり、速度を落としながらゆったりと進みます。
S字カーブを抜けるたび、視界がパッと開け、鮮やかな緑のライステラス(棚田)が段々畑のように斜面に広がります。水を張った田は空を映し、稲が青々と育つ区画は絵の具の緑のように鮮やか。山間を流れる小川のせせらぎまでは聞こえないものの、その存在を感じさせる景観です。
この区間こそ在来線の魅力の真骨頂。高速鉄道WHOOSHでは数分で通過してしまう距離を、在来線は時間をかけてじっくりと進みます。そのため、景色の細部までしっかりと目に焼き付けることができるのです。
発車してまもなく、スタッフが飲み物を配り始めます。まず手渡されたのは、冷たいココナツジュース「Hydro Coco」とミネラルウォーター「AQUA」。プライオリティ席ではこのようなウェルカムドリンクサービスが全員に行われ、移動中の喉をしっかりと潤してくれます。
WHOOSHなどの高速鉄道ではペットボトルの水程度ですが、ココナツジュースが出るのはプライオリティ席ならでは。窓の外の緑を眺めながら飲むこの一杯は、まさに旅のご褒美です。
続いて、スタッフが箱入りの軽食を配ってくれます。パッケージには映画館「XX1 Café」のロゴ。中を開けると、チョコレートがけのパン、チーズ風味のデニッシュ、そしてポップコーンという、映画館らしい組み合わせ。
パンはふんわりと柔らかく、チョコの甘みが口いっぱいに広がります。塩気の効いたポップコーンは軽い食感で、甘いパンとの相性抜群。長時間の移動中に重すぎず、程よくお腹を満たしてくれる量です。
この軽食は単なる“腹ごしらえ”にとどまらず、列車の中で映画館の休憩時間のようなひとときを演出してくれる演出でもあります。プライオリティ席が単なる移動手段ではなく、「体験」として設計されていることがよく分かります。
プライオリティ車両の座席は広く、革張りのしっとりとした質感が長時間座っていても疲れにくい設計。足元にはレッグレストがあり、リクライニングも深めで、まるで飛行機のビジネスクラスのような座り心地です。各席に設置されたコンセントでスマホやPCの充電も可能。Wi-Fiも完備しています。車内は静かで落ち着いた雰囲気で、窓の外をずっと眺めている人、軽食を楽しんでいる人と、思い思いの時間を過ごしています。
軽食の後には、スタッフがホットコーヒーをサービス。紙コップながら、豆の香りが立つしっかりとした味わいで、揺れる列車内で飲むと不思議と美味しさが増します。窓の外では、遠くの山々が徐々に小さくなり、代わって平野の広がりが見えてきます。
在来線特急でここまで手厚いサービスがあるのは珍しく、プライオリティ席の価値を改めて実感します。
14時35分、プワカルタ駅に到着。このあたりから景色は山岳地帯から平地へと移り変わります。水田や畑が地平線まで広がり、ところどころに小さな集落や市場が点在。列車の速度も上がり、レールの継ぎ目を刻むリズムが心地よいBGMになります。
田園風景は季節によって色合いが変わり、稲の若葉が青々と茂る時期は特に美しく、まるで緑のじゅうたんの上を走っているかのようです。
15時37分、ブカシ駅に到着。ここからは一気に都市部らしい景色へ。高層ビル、商業施設、住宅地が密集し、交通量の多い道路が何本も交差しています。車窓からは、赤と銀色の通勤電車(KRLジャボデタベック)が次々と行き交う様子が見られ、鉄道ファンにはたまらない光景です。
駅構内や高架下には露店が立ち並び、バイクタクシー(オジェック)の運転手たちが客待ちをしている様子も見られます。これぞジャカルタ圏の生活感あふれる風景です。
15時50分にジャティネガラ駅を過ぎ、16時04分、列車は終点ガンビル駅に到着。プラットホームに降り立つと、駅構内は大勢の乗客で賑わっています。ビジネスマン、旅行者、地元の人々が入り混じり、地方から都会へ来たことを実感させられる瞬間です。
改札を抜け、広々としたコンコースへ。ここからモナス(独立記念塔)やジャカルタ中心部まではすぐ。旅の続きを市内観光で楽しむのも良いでしょう。
今回のパラヒャンガン・プライオリティ席の旅で最も印象に残ったのは、「移動そのものを楽しむ」という鉄道旅の原点でした。WHOOSHのように高速で移動できる快適さも素晴らしいですが、車窓の移り変わる景色をじっくりと味わい、車内サービスでゆったりと過ごす3時間は、まるで小旅行そのもの。
プライオリティ席の充実した設備と丁寧なサービスは、単なる目的地への移動を特別な時間に変えてくれます。鉄道好きはもちろん、普段は飛行機や高速鉄道を利用する人にも、一度は体験してほしい贅沢な列車旅です。