インドネシア東ジャワ・マランで過ごした数日間の旅も、いよいよ最終夜を迎えました。ブロモ山での幻想的な朝焼け、カラフルなジョディパンの路地歩き、地元のカフェで味わったコーヒーなど、多くの思い出を胸に、最後の夜にふさわしいレストランを選ぶことにしました。向かったのは、マラン駅から歩いてすぐの場所にある名店「Rumah Makan Kertanegara」。前日、マランの夜の散歩のときにクラシックで重厚な建築に惹かれ、マラン最後の夜の食事はこのレストランと決めていました。
Kertanegaraは、ジャワ建築の美を取り入れたレストラン。木のぬくもりを感じる広々とした店内には、品のある照明が優しく灯り、テーブルや椅子にも上質な雰囲気が漂っています。
このレストランの魅力のひとつは、夜に開催されるライブミュージック。この夜も、地元の演奏家によるアコースティックの生演奏が店内に響き渡り、食事をさらに特別なものにしてくれました。曲目は、インドネシアのポップスやクラシックナンバー、そしてボサノバやジャズのインストゥルメンタルなど。料理の味わいと音楽が見事に調和し、まるでひとつの作品の中に身を置いているような感覚を覚えます。
私がこの夜、特に楽しみにしていたのがトムヤム・シーフード(Tomyam Seafood)。この店のシェフ特製のスープは、口コミでも高い評価を得ており、地元の人たちにも長年親しまれている一品です。
赤みがかった透き通ったスープに、エビ、イカ、貝、野菜、キノコなどが贅沢に盛り込まれて登場。レモングラスとライムリーフ、ガランガルなどの香りがふわっと立ちのぼり、見るからに食欲をそそられます。
ひとくち啜ると、まずレモンのような爽やかな酸味が広がり、続いて唐辛子のピリリとした辛さが舌に残ります。海鮮のダシが効いたコク深い味わいで、まさに“飲むごとに体が目覚めていく”ような感覚。辛さは控えめで、酸味が立っているのが特徴的で、日本人の口にもよく合う味だと感じました。
この日の夜は、気温が23度前後と過ごしやすく、レストランの中庭テラス席に座ると、涼やかな夜風が心地よく感じられます。生演奏のギターと歌声をBGMに、熱々のスープを味わいながら夜空を眺める──これ以上ない贅沢な時間です。
ただ、ひとつだけ惜しかったのは……アルコールの提供がないこと。冷たいビールと一緒にこのトムヤムを味わえたら、もっと完璧だったのに……と、心の中でつぶやきながら、代わりにアイスティーを注文しました。
料理や雰囲気だけでなく、スタッフのサービスも丁寧で好感が持てました。料理の説明をしてくれたり、水の追加も気づいたタイミングで提供してくれたりと、落ち着いて食事を楽しめる配慮が行き届いています。
「旅の最後の晩餐は、その街への想いを封じ込める儀式のようなもの」──そんな言葉がふと頭をよぎるような、穏やかで満ち足りた時間でした。Rumah Makan Kertanegaraのトムヤムスープと音楽、そして夜風の記憶は、マランという街の印象をさらに深くしてくれました。
次にマランを訪れる日がいつになるかわかりませんが、そのときもきっとこの店に足を運び、また同じトムヤムを注文することでしょう。
Rumah Makan Kertanegara