バリ島での家族との滞在を終え、私は夕方のライオンエアJT744便でマカッサルへ戻ることになりました。本来であれば16時40分発の予定でしたが、当日は機材の遅れにより、実際の出発は18時過ぎ。ライオンエアらしい“お約束のディレイ”に少々がっかりしながらも、空港で静かにその時を待ちました。しかし、この「遅れ」が思いがけない素晴らしい光景を見せてくれるきっかけとなったのです。
ようやく搭乗が始まり、バスで滑走路脇に移動すると、夕焼けに照らされた機体が黄金色に輝いていました。ライオンエアの赤いロゴが、オレンジ色の空に浮かび上がるように映えています。
搭乗したのはボーイング737-900ER型機、機体番号PK-LGJ。私の座席は38A、後方の窓側でした。窓ガラスは曇っていて外の景色が少しぼやけていましたが、それでも機体が動き出すと、日が沈みかけたバリの空が幻想的な色に染まり、旅の終わりを惜しむかのように、静かに語りかけてくるようでした。
飛行機が滑走路を走り、空へと舞い上がった瞬間、目の前に広がったのは息をのむような光景でした。ちょうど日没の時間帯に重なり、雲海の向こうから神秘的なシルエットを浮かび上がらせていたのは、バリ島の聖山アグン山です。
機体の左側、私の座席からは、アグン山が夕陽に照らされながらくっきりと見え、背景の空はオレンジからピンク、やがて紫へと移ろっていく絶妙なグラデーション。もしフライトが定刻通りに出発していたら、この光景には出会えなかったかもしれません。
「遅れてよかった」――そう思わせてくれるほどの、美しい空の旅となりました。
アグン山が遠ざかるにつれ、空は次第に濃い藍色に包まれ、窓の外は静寂と星の瞬きに支配されていきました。空の上だけに広がる静かな世界。
この時間、機内はとても静かで、多くの乗客が疲れを癒すように眠りについていました。私は窓に顔を寄せながら、今回の旅をゆっくりと振り返っていました。
およそ1時間15分のフライトを経て、ライオンエアJT744便はマカッサル・スルタン・ハサヌディン国際空港へ到着。滑走路に近づくと、街の明かりが夜空に点々と灯り、いつもの“帰ってきた”という感覚が胸に広がりました。
到着は19時30分過ぎ。すでに辺りは真っ暗でしたが、空港の明かりが安心感を与えてくれます。手荷物もスムーズに受け取り、ターミナルを出た瞬間に感じた湿った夜の空気に、「ここがマカッサルだ」と実感しました。
今回のフライトは、予定通りにはいきませんでしたが、むしろその“遅れ”が忘れられない景色を見せてくれました。アグン山と夕陽のコラボレーションは、まさに旅のご褒美のようでした。ライオンエアには文句もありますが、こうして思いがけない瞬間を与えてくれるのも、また旅の醍醐味なのかもしれません。