10月16日、いつものようにスマホで為替を確認して、思わず手が止まりました。1ドル=18,000ルピアです。
インドネシアで暮らしていると、為替は遠いニュースではありません。毎月の支払い、原料の仕入れ、日本へ送る見積もり。数字が動くたびに、頭の中で計算をし直します。
同じ頃に目に入ったのが、「MSCIがインドネシアを格下げするかもしれない」というニュースでした。エマージング、フロンティア、スタンドアローン。聞き慣れない言葉が並んでいたので、自分なりに調べてみました。
MSCIは、世界の株式市場の指数をつくっているアメリカの会社です。世界中の投資家がこの指数を目安にお金を動かしているので、どの区分に入るかは大きな意味を持ちます。
インドネシアは今、「エマージング市場(新興国市場)」に入っています。MSCIは米国時間の10月15日、これを「スタンドアローン市場」に変える案について、市場関係者からの意見募集を始めました。
ここで気をつけたいのは、まだ決まったわけではないことです。意見募集は2027年4月30日まで続き、最終的な判断は2027年6月30日までに発表される予定です。
ただ、今回の案はフロンティア市場への変更ではなく、新興国市場からスタンドアローン市場へ直接移すというものです。厳しい内容であることは間違いありません。
最初は私も、経済がだめになった国が入る最下位のグループだと思っていました。調べてみると、少し違いました。
MSCIの区分は、国の豊かさだけで決まるわけではありません。外国の投資家が安心して株を売買できるか。お金を自由に出し入れできるか。市場の規模や取引量は十分か。そうした「投資のしやすさ」が大きく関係しています。
スタンドアローンは、主要な指数から切り離して扱われる区分です。新しく対象になった市場や、投資環境が大きく悪くなった市場が入ります。ジンバブエ、ナイジェリア、アルゼンチン、ウクライナなどが並んでいますが、理由は国ごとにさまざまです。
今回インドネシアについて指摘されたのは、誰が実質的に株を保有しているのかがわかりにくいこと、示し合わせたような取引への疑いが消えていないこと、取り締まりや改革の効果がまだ確認できないこと、などです。インドネシア経済そのものが崩れた、という話とは分けて考える必要があります。
とはいえ、新興国の指数から外れれば、その指数に連動するファンドでは、インドネシア株を売却する必要が生じます。売却代金をルピアからドルに換える動きが広がれば、ルピア安を後押しする可能性があります。
ルピア安が続けば、輸入品や輸入原料が値上がりし、会社の仕入れや家計の買い物にも響いてきます。
ただ、今のルピア安がすべてMSCIのせいだとは言えません。為替は、アメリカの金利やドルの強さ、インドネシアの金融政策など、いくつもの要因で動きます。今回のニュースは、その中の一つと見ておくのがよさそうです。
私の会社は、マカッサルでタコを仕入れ、加工して日本へ輸出しています。原料代や従業員の給料はルピアで払い、輸出代金はドルで受け取ります。
この形だと、ルピア安は有利に働きます。たとえば1万ドルの代金を受け取ったとき、1ドル=16,000ルピアなら1億6,000万ルピアです。これが18,000ルピアなら、1億8,000万ルピアになります(手数料などを考えない単純計算です)。
同じ商品を同じ値段で売って、手元に入るルピアが2,000万ルピア増える。数字だけ見れば、悪い話ではありません。
ところが、商売はそこで終わりません。
日本のお客さんは、最後は円で採算を考えます。円安ドル高が進めば、同じドル価格でも日本側の負担は重くなります。「もう少し何とかならないか」という相談が来るのは自然な流れです。
インドネシア側でも、燃料代や氷代、輸送費が上がれば、仕入れ値に影響する可能性があります。タコの浜値は、水揚げ量や買い手との競争でも動きます。こちらの都合だけで値段は決まりません。
そもそも、為替がどれだけ有利でも、海が荒れてタコが獲れなければ出荷できません。
私が毎日見ているのは、ドルとルピアだけではありません。円とドル、そして毎日のタコの仕入れ値です。この三つを見比べて、ようやく商売になるかどうかが見えてきます。
インドネシアがこれからどうなるのか、私には言い切れません。まずは、当局が打ち出した改革が本当に市場の改善につながるのか、来年6月までの動きを見ていこうと思います。
ニュースを見たあとも、確認するのは原料の集まり具合と、日本のお客さんからの注文です。ルピア安で計算上の採算がよくなっても、原料が集まらず、売り先が決まらなければ出荷はできません。
1ドル=18,000ルピア。その数字を見ながら、今日も仕入れ値と売値を計算し直しています。
参考
・ロイター:MSCIの市場分類とその意味(2026年10月16日・英語)