マカッサルのショッピングモールを歩いていると、最近は日本食レストランをよく見かけるようになりました。
寿司、うどん、天ぷら、牛丼、カレー。
少し前まで「日本食」といえば寿司くらいしかありませんでしたが、今では日本のチェーン店も続々と進出しています。
その中でも、特に目につくのがラーメン店です。
インドネシアのモールには、必ずと言っていいほどラーメン店が入っています。
しかも多くの店が「ハラルラーメン」を掲げています。
しかし、正直に言うと私はいつも少し違和感を感じてしまいます。
味が悪いわけではありません。
むしろ鶏白湯のスープなどは、よく作られている店も多いです。
それでもどうしても、日本で食べるラーメンとは違うのです。
その違和感の象徴が、スープの温度です。
日本人にとってラーメンは、熱い食べ物です。
むしろ「熱すぎる」くらいが普通でしょう。
スープは湯気が立ち、麺をすすれば口の中が少し火傷しそうになる。
その熱さこそが、ラーメンの魅力の一部でもあります。
しかしインドネシアのラーメンは、多くの場合そこまで熱くありません。
店によっては、明らかにぬるいと感じることもあります。
最初は単純に「オペレーションの問題だろうか」と思いました。
しかしいろいろな店で食べているうちに、これは単なる調理の問題ではないことに気づきました。
理由は文化にあります。
インドネシアでは、日本ほど熱い料理を食べる習慣がありません。
むしろ
・熱すぎる料理は危ない
・ゆっくり食べる
・猫舌の人が多い
こうした背景があります。
つまり、店側が温度を下げている可能性が高いのです。
これは味の問題ではなく、文化のローカライズなのです。
インドネシアで日本食を提供するうえで避けて通れないのが、ハラル問題です。
イスラム教徒が多いインドネシアでは、豚肉やアルコールが使えない店が多くあります。
日本のラーメン文化を考えると、この制約はかなり大きいものです。
日本のラーメンは
こうした素材が味の核になっています。
しかしハラルラーメンでは、それらが使えません。
そのため多くの店が
鶏白湯スープ
に置き換えています。
これは決して悪い選択ではありません。
実際、インドネシアでは鶏料理が非常に人気だからです。
しかし同時に、ここで日本のラーメンとは別の料理になってしまいます。
つまりインドネシアのラーメンは
「日本のラーメン風料理」
になりやすいのです。
もう一つ大きな問題があります。
それは価格です。
インドネシアでラーメンを食べると、多くの店で
80,000〜120,000ルピア
くらいします。
これは日本円で800〜1200円ほどです。
日本人からすると普通の価格ですが、インドネシアでは決して安くありません。
現地の食堂にあるミーアヤムであれば
30,000~50,000ルピア
(約300~500円)
程度で食事ができます。
つまりラーメンは
高級料理
なのです。
これは日本とは大きく違います。
日本ではラーメンは庶民的な食べ物です。
仕事帰りに気軽に食べるものです。
しかしインドネシアでは
「モールで食べる日本料理」
という位置づけになります。
この時点で、ラーメンは日本の文化とは違う形になってしまいます。
成功している日本食との違い
では、インドネシアで成功している日本食は何でしょうか。
いくつか例を挙げると
丸亀製麺
吉野家
回転寿司チェーン
などがあります。
これらには共通点があります。
それは
ローカライズしやすい料理
だということです。
例えば丸亀製麺。
うどんは
鶏だしでも成立する
豚肉が必須ではない
トッピングを変えられる
つまり文化調整がしやすい料理なのです。
寿司も同じです。
インドネシアでは
サーモン寿司
チーズ寿司
マヨネーズ寿司
など独自進化しています。
もはや日本の寿司とは別物ですが、それでも人気は高いのです。
つまり成功している日本食は
味よりも文化で売れる
料理なのです。
ここがラーメンの難しさです。
ラーメンは本来
味そのもの
で勝負する料理です。
スープ
麺
油
温度
このバランスがすべてです。
だからこそ、日本では職人文化が生まれました。
しかし海外では
ハラル制約
原材料
温度文化
価格
すべてが変わります。
その結果
本来のラーメンとは違うもの
になりやすいのです。
日本企業が誤解していること
海外進出する日本企業の中には、
「日本で成功した味をそのまま持っていけば売れる」
と考えるケースも多くあります。
しかしインドネシアではそれが通用しません。
なぜなら
市場が違うからです。
味覚
宗教
文化
価格感覚
すべて違います。
むしろ成功している店は
最初から別の料理として設計しています。
ではインドネシアでラーメンは成功しないのでしょうか。
私はそうは思いません。
むしろ可能性はあると思います。
ただし条件があります。
それは
「日本のラーメン」にこだわりすぎないこと
です。
例えば
鶏ベースのスープ
辛味を強くする
麺をローカル仕様にする
こうした調整をすれば、インドネシアの市場に合ったラーメンが生まれるかもしれません。
実際、インドネシアには
インドミー
という世界的な即席麺文化があります。
麺文化そのものは非常に強いのです。
つまり問題は
ラーメンではなく、日本式ラーメン
なのかもしれません。
海外で日本食を展開するとき、いつも悩む問題があります。
どこまで変えるべきなのか。
日本の味を守るのか。
それとも現地に合わせるのか。
このバランスが難しいのです。
変えすぎると日本食ではなくなる。
変えなければ売れない。
インドネシアのラーメンは、まさにその境界線にある料理です。
ぬるいスープの一杯を前にしながら、私はいつもこの問題を考えてしまいます。
日本食の海外展開とは、単なる料理の輸出ではありません。
文化の翻訳
なのです。
そしてその翻訳は、想像以上に難しいものなのです。