2025年8月末、インドネシア各地で大規模な反政府デモが発生しています。きっかけは国会議員に支給されていた月5000万ルピア(約45万円)の住宅手当。最低賃金の20倍近い額であり、教育や福祉予算が削減される中での優遇に国民の怒りが爆発しました。デモはジャカルタから地方都市へ拡大し、放火や略奪に発展。すでに複数の死者も出ており、緊張が続いています。
下院議員580人に支給されてきた住宅手当が、月給や各種手当と合わせて毎月1億ルピア以上の収入につながっていたことが報道で明らかになりました。これは最低賃金の約20倍。SNSでは「#bubarkanDPR(議会を解散せよ)」というハッシュタグが拡散され、学生や労働者が街頭へと繰り出しました。「政治エリートの過剰な特権」。それがSNSで一気に可視化され、街頭の合言葉になりました。
8月28日夜、ジャカルタの国会周辺で警察車両が配達中の21歳のライダーをはね死亡させた事件が映像とともに拡散し、怒りは「議員」から「治安当局」へも矛先を広げます。以後、催涙ガスと放水の応酬、各地での放火・破壊行為へとエスカレートしました。
在住者として胸が痛むのは、地方議会(DPRD)施設が次々に狙われていること。8月29日夜のマカッサルでは議会庁舎が放火され、会議中だった関係者らが犠牲に。会議に出席していた関係者や職員ら4人が死亡が確認され、けが人も出ました。現場では退避が間に合わなかった人、炎から逃れるため高所から飛び降りた人もいたと伝えられています。
私自身マカッサルに住んでいますが、「議会が燃えた」というニュースは大きな衝撃を与えました。市民にとって議会庁舎は、政治の場であると同時に地域の象徴的な建物。そこが炎に包まれ、犠牲者まで出たことは「もう安全神話はないのか」と強く感じさせました。
現地では、火災から逃れようと高層階から飛び降りた人や、煙に巻かれて命を落とした職員がいたと報じられています。市民の間でも「議会が燃えるなんて信じられない」という声が多く、デモが単なる抗議の枠を超えて都市の機能を脅かす段階に入ったことを痛感させられました。
ジャカルタではトランスジャカルタのバス停が破壊され、一部の路線が停止。代替措置としてTransjakartaとMRTが1週間無料化されました。
一方で、日曜日恒例の「カーフリーデー」は通常通り開催されるなど、生活は「危険な場所を避けながら続いている」というのが現実です。マカッサルでも昼間は通常の生活が営まれていますが、州議会や警察署周辺は完全に封鎖され、近づかないようにするのが暗黙のルールになっています。
SNSでの情報拡散を抑制するため、TikTokが国内でライブ配信機能を一時停止。現場からの生中継は大幅に減りましたが、一方で「破壊行為はデモ隊ではなく“紛れ込んだ何者か”によるものだ」という投稿も拡散。真偽不明の情報が飛び交い、現場の混乱に拍車をかけています。
事態はさらに深刻化し、一部のデモ隊が議員の自宅を襲撃。副議長アフマド・サフロニ氏が「議会解散を求めるのは世界一のバカだ」と発言したことが炎上し、自宅が最初の標的に。
略奪の映像では金庫からばら撒かれた現金を人々が奪い合い、「これは国民の金だ!」と叫ぶ様子が拡散されました。さらに、人気タレント議員や財務大臣スリ・ムルヤニ氏の自宅までもが襲撃対象となっています。
プラボウォ大統領は国内情勢を理由に、9月初旬に予定されていた中国訪問を中止。与野党党首を招集して緊急会議を行い、議員手当の撤廃や海外出張の停止を発表しました。これはデモの沈静化を狙った大きな譲歩であり、今後の行方を左右する重要な一手です。
在インドネシア日本大使館は「不要不急の外出を控え、国会や地方議会、警察施設の周辺を避けるように」と注意喚起を出しました。生活必需品の備蓄についても呼びかけがあり、物流の遅延リスクに備える動きが広がっています。
労働組合は「政府が対応しなければ9月2日以降さらに大規模な抗議を行う」と表明しています。
今後の焦点は、
収束に向かうのか、さらに混乱が広がるのかは、ここ数日の動きにかかっています。
インドネシアのデモは単なる政治的イベントではなく、国民生活と政治エリートの乖離が露わになった象徴的出来事です。特にマカッサルで州議会庁舎が炎上した光景は、地域住民にとって忘れられない衝撃となりました。街は一部で危険をはらみつつも、日常は続いています。だからこそ、在住者としては「正確な情報」と「備え」を両立させることが大切です。
インドネシアの民主主義と社会の安定がどの方向に進むのか。いま、この国は大きな岐路に立っています。
外務省からスポット情報が出ていますので、インドネシアへの渡航を検討している方は、事前に現地の最新情報の収集に努める等、十分に注意してください。