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インドネシアで会社を立ち上げてわかった“海外ビジネスのリアル”③

👉 序章〜第2章はこちらから読む
👉 第3章~第4章はこちらから読む

資金の壁、自然相手のビジネスの不確実性。それらを乗り越えた先に待っていたのは、「制度と行政」というもう一つの大きな壁でした。

どれだけ正しい手続きをしても進まない。担当者が変われば、積み上げたプロセスが一瞬でゼロになる。日本の常識が通用しない世界で、私は何度も心が折れそうになりました。

それでも続けられたのは、この国で出会った人たちと、「ともに何かを築く喜び」 があったからです。

ここからお話しするのは、制度との向き合い方、そして「それでも海外で働く価値はあるのか」という問いへの答えです。

第5章:行政・制度との向き合い方 ― 「正直者」が報われるとは限らない

突然止まるプロセス、リセットされる進捗

ビジネスが軌道に乗りかけた頃、もう一つの壁が立ちはだかりました。それが、”制度と行政”の壁です。

インドネシアでは、許可証の取得や更新が突然止まったり、担当者が異動した途端にプロセスがリセットされることが珍しくありません。「正しい手続きをしているのに進まない」。その理由は、担当者の不在、書類の紛失、システムの不具合、あるいは単に「前任者から引き継ぎがない」など様々です。

ある時、輸出許可の更新手続きをしていた際、担当官が突然異動になりました。新しい担当者に事情を説明しても、「前任者から何も聞いていない」と一蹴され、すべての書類を再提出することになりました。3ヶ月かけて進めてきたプロセスが、一瞬でゼロに戻ったのです。

ルールを守ることと、現地の空気を読むことの両立

ここで大切なのは、ルールを守ることと、現地の空気を読むことを両立させることです。「正しいことをしているのだから、強く主張すればいい」というのは、日本的な発想です。インドネシアでは、正しさよりも”関係性”が優先されることがあります。

私が学んだのは、「怒らない」「急かさない」「感謝を伝える」という3つの原則です。たとえ理不尽に感じても、担当者を責めない。進捗が遅くても、焦りを見せない。そして、少しでも前に進んだら、必ず「ありがとう」と伝える。

“正直者が報われる”とは限らない。しかし、”不正をしない者が信頼される”のもまた事実。時間はかかっても、誠実に進めた仕事は必ず誰かが見ています。現地官庁との協議を重ねる中でも感じたのは、「外国人だからこそ、”誠実さ”で信頼を勝ち取れる場面がある」ということでした。

行政は敵ではなく、長い付き合いのパートナー

この国では、法令よりも「人」が動かす部分が大きい。だからこそ、書類よりも”対話”を大事にする。私は月に一度、関係する行政機関を訪問し、顔を出すようにしています。用事がなくても、挨拶に行く。それだけで、「ああ、あの日本人ね」と覚えてもらえます。

一度信頼を築けば、想像以上に協力的になる――それがインドネシアの魅力でもあります。ある時、急ぎの許可が必要になった際、普段から顔を出していた担当者が「今回は特別に早く処理してあげる」と助けてくれました。それは賄賂ではなく、日頃の関係性があったからこそです。

行政は敵ではありません。長い付き合いのパートナーです。その視点を持てるかどうかが、海外ビジネスの成否を分けます。

第6章:それでも海外で働く価値はあるのか

「なぜそこまでして続けるのか?」と、何度も聞かれました。友人から、家族から、時には自分自身に。答えはシンプルです。”現地の人と共に何かを築くこと”が、何よりもやりがいになるからです。

確かに、海外で会社を経営するのは簡単ではありません。トラブル、誤解、遅延、資金難――何度も挫けそうになります。深夜、一人で、「なぜこんなに苦しいのだろう」と自問する夜もありました。

しかしその一方で、現地社員の成長、漁師の笑顔、そして出荷されたコンテナを見る瞬間。それが、何よりの報酬です。最初は指示待ちだったスタッフが、自ら考えて動くようになる。漁師が「あなたのおかげで生活が安定した」と握手を求めてくる。日本の顧客から「品質が素晴らしい」と連絡が来る。その瞬間、すべての苦労が報われます。

数字では測れない価値

海外ビジネスの本質は「儲けること」ではなく、「信頼を積み上げること」。そしてその信頼が、人と人、国と国をつなぐ力になる。この仕事を通じて、私は”数字では測れない価値”を知りました。

売上や利益も大切です。しかし、それ以上に大切なのは、「この会社があってよかった」と思ってもらえる存在になることです。現地の雇用を生み、漁師の収入を安定させ、日本の消費者に美味しい水産物を届ける――その循環が、私のビジネスの意味です。

ある日、社員の一人が言いました。「ここで働けて、本当に幸せです。家族を養えるし、将来に希望が持てる」。その言葉を聞いた時、私は涙が出そうになりました。これが、私が続ける理由です。

海外で働くということは、自分という”会社”を経営することです。誰も守ってくれない世界で、自ら決断し、結果を引き受ける。その積み重ねが、人生そのものを強くしてくれる。

日本にいた頃の私は、どこか「誰かが守ってくれる」と思っていました。しかし、ここでは違います。すべてが自己責任。失敗しても、誰も助けてくれません。その厳しさが、私を成長させました。

終章:海外でビジネスをするあなたへ

これから海外で働こうとしている人に、伝えたいことがあります。

完璧を求めないこと

すべてが思い通りにいく国はありません。トラブルは日常です。それを受け入れる覚悟が必要です。

信頼は書類ではなく、人との時間で育つこと

コーヒー一杯が、契約書よりも重い意味を持つことがあります。人と向き合う時間を惜しまないでください。

誠実であること

遠回りでも、正直さは必ず誰かに届きます。短期的な利益よりも、長期的な信頼を選んでください。

現場に出ること

机上の計画よりも、現地の空気がすべてを教えてくれます。オフィスを出て、現場を見てください。

そして最後に――

夢ではなく、現実を生きる。それが、私がインドネシアで学んだ”海外ビジネスのリアル”です。

この記事が、あなたの一歩を後押しできれば幸いです。海外で働くことは、決して楽ではありません。しかし、その先には、お金では買えない価値が待っています。

あなたの挑戦を、心から応援しています。

kenji kuzunuki

葛貫ケンジ@インドネシアの海で闘う社長🇮🇩 Kenndo Fisheries 代表🏢 インドネシア全国の魅力を発信🎥 タコなどの水産会社を経営中25年間サラリーマン人生から、インドネシアで起業してインドネシアライフを満喫しています。 インドネシア情報だけでなく、営業部門に長年いましたので、営業についてや、今プログラミングを勉強中ですので、皆さんのお役にたつ情報をお伝えします。