中部ジャワの北岸に位置するジェパラ。美しい海に面したこの町は、インドネシア随一の木工芸の産地として知られ、繊細な彫刻家具が国内外から高い評価を得ています。今回、そのジェパラを訪れることになり、マカッサルからインドネシアの空を縦断する旅がスタートしました。
早朝というより“深夜”に近い時間帯に出発し、まだ目覚めぬ街を抜けて空港へ向かい、機上から幻想的な夜明けを眺めながら首都ジャカルタへと降り立つまで――まずは「マカッサルからジャカルタまで」のフライトの様子をお届けします。
マカッサルの街を出発したのは、まだ午前4時前。空には星が残り、夜の名残が濃く漂っていました。車のフロントガラスに映る街灯の光が、規則的に揺れながら道路を照らしていきます。通勤のラッシュはもちろん、屋台の明かりさえほとんど見られず、まるで時間が止まっているかのような静けさでした。
この時間帯でも空港には一定の人の流れがあります。出稼ぎで島を移動する人、乗り継ぎで東インドネシアへ向かう外国人観光客、ビジネスマンなど、空港の中だけが早くも“活動の始まり”を迎えており、それぞれが異なる目的地へ向けて静かに動き出していました。
空港のチェックインカウンターで手続きを終え、保安検査を抜けて搭乗ゲートへ。搭乗予定のCitilink QG347便は、出発の前日に届いたメールによると、スケジュールよりも20分以上早く出発に変更されていました。ジャカルタでの乗り継ぎを控えていたため、余裕のある乗り継ぎが可能になるのは幸運な知らせでした。インドネシア国内線では、こうした時間の前倒しも珍しくなく、「早く出発するがゆえの乗り遅れ」には要注意。メールチェックは必須です。
滑走路を滑る飛行機の振動が、まだ半分眠っていた体にじわりと伝わってきます。大きな音を立てて空へ飛び立つと、マカッサルの街の灯りが一気に遠ざかり、闇の中に広がる無数の小さな光点が眼下に広がりました。
その後方から、少しずつ空が明るみ始めます。マカッサルは東の空に位置するため、ジャカルタへ向かう飛行機は“夜明けに背を向けて進む”ことになります。結果として、太陽の昇るスピードよりも飛行機の方が速く進んでいくという、不思議な感覚に包まれます。
ふと窓の外を見ると、水平線のあたりに滲むような朱色が見え始めていました。深い群青色の空が徐々に薄まり、そこにオレンジ、ピンク、淡い金色が重なり合って、まるで水彩画のようなグラデーションを描き出します。その色彩の変化を眺めていると、時の流れが少しゆっくりになったかのような錯覚を覚えます。
日常生活では決して味わえない、空と光の移ろいに心を奪われながら、私はしばし窓に額を寄せ、何も考えずにただ空を眺めていました。マカッサルからジャカルタへのこの短いフライトは、ただの移動ではありませんでした。まだ目覚めぬ街、静けさの中の離陸、機上から眺める夜明け、静寂に包まれた空港…。旅が始まったというだけで、世界が少しだけ違って見える。そんな感覚を味わわせてくれる、贅沢な空の旅でした。
ジャカルタの街並みが徐々に近づき、機体は降下を開始。窓の外に見える高層ビル群と湾岸の工業地帯は、夜明けの斜光を受けて静かに光り始めていました。これから膨大な数の人々が動き出す首都の朝に、ひと足先に到着するというのは、何とも気持ちの良いものです。
この日の到着は、スカルノ・ハッタ国際空港のターミナル1B。
2025年現在、シティリンクはこのターミナルを専用で使用しており、以前のターミナル3とは異なる落ち着いた雰囲気があります。建物の設備はやや古さを感じさせるものの、その分、人の流れも少なく、どこか“旅情”を感じさせてくれる空間です。
到着ロビーに出ると、まだ人もまばら。普段のジャカルタ空港といえば、喧騒と混雑の象徴のような存在ですが、この時間帯はまるで別世界。まるで「まだ誰も知らない秘密の空港」に降り立ったような、不思議な優越感と静けさに包まれました。
このあとは、ターミナル3へ移動し、ガルーダ・インドネシア航空でスマランへと向かいます。