インドネシアに滞在しながら、密かに進めているプロジェクトがあります。それは、ASEAN11カ国完全制覇です。2025年に東ティモールが正式加盟し、この壮大な旅の計画を立てているのですが、正直なところ、なかなか思うように進んでいません。
これまで訪れたのは、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム、カンボジアの6カ国。半分を少し超えたあたりで、しばらく足踏み状態が続いていました。ラオス、ミャンマー、フィリピン、そしてブルネイ。残りの国々は、どこか遠く感じられ、次の一手を踏み出せずにいたのです。
そんな中、今回ついにブルネイ行きが決まりました。カリマンタン島に位置する小国で、地理的にはインドネシア国内旅行の延長のような感覚です。しかし、調べてみると、思いのほか興味深い発見がありました。
ブルネイの航空会社であるロイヤルブルネイ航空が、ジャカルタ、スラバヤ、バリクパパンから首都バンダル・スリブガワン(Bandar Seri Begawan、通称BSB)まで定期便を運航しているのです。そして今回、人生初のロイヤルブルネイ航空への搭乗が実現しました。
当初は、2025年2月から新規就航したバリクパパン便に乗りたいと考えていました。カリマンタンの玄関口から隣国ブルネイへ向かうルートは、地理的にも近く、まさにインドネシア国内旅行の延長線上にあるような感覚が味わえるはずでした。
しかし、バリクパパン便は週2便のみの運航で、BSB到着が深夜になってしまいます。初めての国、初めての街で深夜到着はリスクが高く、ホテルまでの移動も不安です。何より翌日の活動に影響が出てしまいます。
そのため、最終的にはジャカルタ発の便を選びました。週5便が運航されており、マカッサルからの乗り継ぎも考慮すると、13時15分発のBI736便が最適でした。夕方に到着できるため、ホテルチェックインにも余裕があります。
帰りのルートも検討しました。ジャカルタにはエアアジアも就航しているので、往路はロイヤルブルネイ航空、復路はエアアジアという組み合わせで、異なる航空会社を体験できる点も魅力でした。
旅はマカッサルから始まりました。ライオンエアでジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港へ向かいます。ライオンエアはターミナル1に到着しますが、ロイヤルブルネイ航空はターミナル3からの出発です。つまり、ターミナル間の移動が必要になります。
スカルノ・ハッタ空港のターミナル移動は、慣れれば簡単ですが、初めての人には少し複雑に感じるかもしれません。シャトルバスが定期的に運行されており、15〜20分程度で移動できます。ただし、国際線の場合は特に、時間に余裕を持つことが重要です。できれば3時間前には空港に到着しておきたいところです。
チェックイン前に、必要書類を念のため再確認します。ブルネイ入国には、いくつかの事前準備が必要です。
まず、E-Arrival Cardの事前登録。オンラインで入力するとメールで通知が届きます。QRコードが発行されなかったため、入国時には自動認識されるのでしょう。これにより入国手続きがスムーズになります。
次に、健康申告。こちらもオンラインで事前登録が可能です。現在の健康状態や渡航歴を申告するもので、コロナ禍の名残ともいえる手続きですが、2025年現在も継続されています。
幸い、日本人はビザ不要で、観光目的なら最大30日間の滞在が認められています。日本パスポートの強さを改めて感じる瞬間です。
ただし、帰りのEチケット提示が求められる点には注意が必要です。片道航空券のみでは搭乗拒否される可能性があります。豊かな国であるブルネイは、不法滞在への警戒が非常に強く、「必ず帰国する」証明が必要なのです。
私はあらかじめエアアジアの復路便を予約しており、そのEチケットをスマートフォンに保存していました。チェックイン時に提示すると、係員が丁寧に確認し、無事に搭乗券を発行してくれました。
日本パスポートであれば大きな問題はありませんが、準備不足で搭乗拒否されるケースもあると聞きます。事前準備の大切さを改めて実感しました。
搭乗券を受け取り、出国審査を済ませました。出発まではまだ2時間以上あります。こういうときこそ、ラウンジでゆっくり過ごしたいものです。
普段、日本へ帰国する際には、航空会社ステータスのおかげでラウンジを利用しています。しかし、ロイヤルブルネイ航空はどのアライアンスにも加盟していない独立系航空会社です。
そこで活躍するのがプライオリティパスです。世界中の空港ラウンジを利用できる心強いカードで、今回もプラザプレミアムラウンジへ向かいました。
ターミナル3にはビジネスクラス用とは別に、プライオリティパス専用ラウンジがあることに今回初めて気づきました。入口付近にひっそりとあり、看板も控えめなので、これまで見落としていたのかもしれません。
中に入ると、こじんまりした落ち着いた空間が広がっていました。
混雑もなく、ゆったりと過ごせます。ソファに座り、まずはビールをいただきました。冷えたカールスバーグが喉を潤します。
なぜ今ビールなのか。その理由は簡単で、ブルネイはイスラム教が非常に厳格で、国内でアルコールは一切販売されていないからです。ホテルやレストラン、コンビニでもお酒は手に入りません。事前申告すれば持ち込みのお酒を飲めるようですが、私はブルネイの文化を尊重し、滞在中はお酒を飲まないと決めていました。
普段はインドネシアでも毎日飲むわけではありませんが、「これが最後のビール」と思うとなぜか一層おいしく感じるものです。
ラウンジでくつろいでいるうちに、出発時刻が近づいてきました。搭乗券を見ると、ゲート番号は「1」。ターミナル3で最も遠いゲートです。
ターミナル3は非常に長い構造で、ゲート1までは歩いて15分以上かかります。動く歩道を使いながら移動を開始しました。免税店が並んでいますが今回は特に買い物の予定もありません。ブルネイで何が買えるのかは、現地で考えることにします。
ゲート1にはすでに数名の乗客が集まっていました。ほとんどがブルネイ人やインドネシア人で、日本人は見当たりません。欧米人も少なく、お酒が飲めないブルネイは観光地としてはあまりメジャーではないのかもしれません。
窓の外を見ると、ロイヤルブルネイ航空のA320ネオが着陸してきました。この機体が折り返しで私たちをBSBへ運ぶのです。清掃や燃料補給が手際よく進み、航空会社の運用効率の高さを感じます。
しばらくすると地上職員が準備を整え、搭乗開始がアナウンスされました。ビジネスクラス、ステータス保持者、子ども連れの家族が優先搭乗し、その後一般搭乗が始まりました。
私も搭乗券をスキャンし、搭乗橋を進みます。いよいよ人生初のロイヤルブルネイ航空搭乗です。
機内に入ると、独特の雰囲気に包まれていました。キャビンアテンダントはブルネイの伝統を思わせるデザインの制服を着ており、エレガントで機能的なスタイルです。
座席に着きシートベルトを締めると、A320ネオの新しさと清潔感が伝わってきました。クッションの程よい硬さで、約2時間のフライトには十分です。
窓の外では地上職員が最終チェックを行い、荷物の積み込みも完了。ドアが閉まり、エンジンが始動し、機体がゆっくりと動き出します。
いよいよブルネイへの旅が始まります。これまで訪れた国々とは異なる、新しい文化との出会いが待っているはずです。イスラム教が厳格な国、石油で豊かな国、スルタンが統治する国…。ブルネイには多くの「初めて」が詰まっています。
滑走路へ向かう途中、ジャカルタの街並みが遠ざかっていきます。大都市の喧騒から離れ、静かな小国へ向かうという対比も、今回の旅の魅力です。
離陸許可が下り、エンジン音が一気に高まり、機体が加速します。そして、ふわりと浮き上がる感覚。ジャカルタの大地がどんどん遠ざかっていきます。
次の目的地は、バンダル・スリブガワン。ASEAN制覇への新たな一歩です。
次回は、機内での体験と、BSB到着後の様子をお伝えする予定です。
続く。